症例検討

00/04/30

求心性心肥大を伴う高血圧
ニューロタン 公開座談会 2000.4.15 session2   症例報告

(医)はとりクリニック 羽鳥 裕

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症例は、  ++  48歳、男性 です。
主訴 高血圧、心電図異常を健診にて指摘されています。
 
既往歴 特記すべき事なし  
家族歴  父 高血圧 急性心筋梗塞 66歳で死亡    
姉 高血圧
アルコール:少量  
喫煙:なし
 
職業 ** 趣味としてランニング
       現在:***
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現病歴 :会社入社時より、150−80程度の高血圧境界域の指摘あり、
     
35歳における一般健診にて、高血圧150/100mmHg
       心電図にて、左室高電位、左室肥大を指摘されてます。
塩分制限・食事指導などで経過観察、会社において高血圧管理となりました。
     
38歳時に、会社診療所にて長時間作用型のCa拮抗薬を処方されてますが、
       処方直後からの 頭痛、ぐらぐら感、顔面紅潮、動悸が出現するために服薬していません。

     その後も健診で血圧高値を指摘されるも放置していました。
     会社保健婦による食事生活指導をうけていますが、
     150−90程度までで、十分な降圧が得られておりません。 

     39歳、健診の後、再び、170−104mmHgあり、ランナーということもあって、当院へ紹介 初診となっています。 

     
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現症  
  理学所見
身長 175cm 体重 68.5kg BSA 1.82m2

BMI 22.4 体脂肪率(インピーダンス法)21%
  
安静時              坐位血圧178/104mmHg(88)
臥位血圧180/102mmHg(88)
             立位血圧176/100mmHg(90)
眼底は所見なし.

  高血圧の基準JNC Y 
WHO/ISH 1999 グレード2高血圧 目標となる中等症 若年・中年の高血圧の130−85には程遠い数字です。
呼吸音清、聴診左第3肋間を中心に収縮期雑音軽度(Levine2/Y)、貧血、黄疸なし、頚部甲状腺触知なし、腹部所見なし、浮腫なし、神経学的検査異常なし、足背動脈触知

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胸部レントゲン供覧  心胸郭比 47.6% 
            心陰影 肺野 所見なし
39歳から42歳までは、Βblocker metoprolol longactive120mg なども使用しましたが、ランニングなどの運動能の障害、ふさぎこみがあるということで服薬拒否、DiltiazemなどのCa拮抗薬も同様の理由で十分服薬されていません。
そこで、運動療法を中心に食事・生活指導等を行っていました。しかし、後に示しますが、必要な降圧は得られていません。

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96.4 44歳 のトレッドミル(Marquette Case12 )負荷前 Voltage Criteriaによる左室肥大、小さなδ波、左側高電位、胸部誘導の陰性T波を認めております。

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ブルース法ステージ4 1分までで、負荷ピーク時 2,3、aVfの水平型のST低下等を認めますがrecovery phaseにて3分後にはで負荷前のSTレベルに戻ります。

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ニューロタン服用後の、99.4 47歳 3年後の負荷ですが、ほぼ同じ変化の波形です。

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心臓超音波所見です。
  左の3枚は93年当時 日立460B 中央、右は 東芝SSA-260Aを用いた ニューロタン服用前ごのものです.
 投薬前
  AOD 36.4 AVD 22.7 LAD 39.6 RVOTD 23.1  IVSTd14.2* PWTd 13.5* LVDd 41.6 IVSTs 15.5 PWT s17.0 LVDs 27.0 SV 54.3 CO 3.81 CI 2.09 EF LVM
(6.93**=332.8 4.16**=72.0 LVM 260.8 LVMI=143.2/m2)
  AOD 36.4 AVD 22.7 LAD 39.6 RVOTD 23.1  IVSTd12.2* PWTd 11.5* LVDd 42.6 IVSTs 13.3 PWT s 15.9  LVDs 27.0 SV 54.3 CO 3.81 CI 2.09
 カラードプラー上は、図示しておりませんが、左房の拡大、左室内腔の狭小を認めます。駆出時の軽度の渦流がありますが、逆流はありません。
 左室心筋重量はTeichholtz法で、  260.8   g、体表面積で補正して  143.2 /m3 と中隔、後壁の肥厚、左室内腔の狭小を伴う求心性心肥大を示しますが、治療により、214.9g、体表面積で補正して118.1g/m3と、中隔、後壁の肥厚の軽度の改善、ならびに 左室内腔の軽度の拡張が見られております。
 
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血液生化学所見
44歳のころの検査所見です。
WBC 4400 RBC 485 Hb 15.8 Ht46.2
CRP 0.2
GOT 26 GPT 24 γ-GTP 18 LDH405 ALP 138
  UA 7.2* Crtnn 1.1 BUN 17.1 FPG 97
Tcho 215 TG 227* HDLc 33
Na 143 K 4.3 Cl 105

尿一般所見 特記すべき事なし

尿酸の軽度高値、中性脂肪の高値、HDLコレステロールの低値などが認められます。

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後ほど、説明いたしますが、
44歳・運動療法前、
45歳・運動療法時、
47歳・ニューロタン服用後の安定した時期の外来血圧値、24時間血圧値、主な血液生化学の検査を示します。
 運動療法によって、血圧の低下は十分ではありませんが、コレステロールは軽度の低下、HDLコレステロ−ルの上昇、中性脂肪の低下がありますが、尿酸はむしろ上昇しています。
 一方、ニューロタン服用によって、降圧はまだ十分とはいえませんが、尿酸は正常範囲になっています。
 腎機能の障害なく糸球体ろ過率に問題がないと考えられますので、尿中尿酸/尿中クレアチニン比によるスポット尿による尿酸排泄をみますと、濃度比では初診時、運動療法中のいずれも 0.5 程度で、運動中の尿酸上昇は産生過剰とも排泄低下とも断定しがたいと考えました。
一方、ニューロタン服用中の尿中尿酸 (0.9g/L)/ 尿中クレアチニン (1.1g/L) 比による濃度比では0.88となっているためにやや排泄促進があったと考えられます。
 人間ドック学会などの検診の成績からは、高血圧症の30%に高尿酸血症があり、高尿酸血症の20%に高血圧があることが指摘されています.収縮期、拡張期いずれの血圧の上昇とともに尿酸値の上昇が指摘されています.

(%比率 尿酸クリアランス/クレアチニンクリアランス*100 fractional uric acid clearance)
 
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 血圧の日内変動ABPM  

運動療法前は、血圧の自己測定値を記入しています。

AU拮抗薬投薬前、投与8週後の非観血的、無拘束の観察を行いました。フクダ電子の24時間心電血圧記録器FM-200を用いて日中は30分おきに、夜間は1時間おきに記録しております。
同時に記録しております心拍の変動から見ると、日中は、緊縛による血圧測定はストレスにはなってないとかんがえましたが、夜間血圧測定時はやや心拍数の増加が見られます。
 最近のABPMからみるとnon-dippr type, extreme-dipper typeに無症候性脳血管障害、心筋虚血が多いという報告がありますが、この症例では、夜間の血圧低下は10%程度です。
起床前から血圧の上昇の見られるモーニングサージ型に近い血圧のパターンで、運動療法のみでは、拡張期血圧が高く夜間の高血圧がコントロールされていません。

服薬中の記録は、午前8時、ニューロタン50mgを服薬しているときのものです。
 服薬により、夜間の血圧上昇は防げていますが、日中のコントロールが十分とはいえないかもしれません。

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平均血圧のグラフです。

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実測例を示します.

スライド17
フクダ電子の24時間心電血圧記録器FM-200を示します.保険適応になっていますので開業医には使いやすくなりました.

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運動療法中に用いたライフコーダを示します。
日内運動量・活動量を定量的に計るため、スズケン多メモリー加速度計測機能付歩数計ライフコーダ を用いて解析した。具体的には、平均運動量、運動強度、10分間以上の運動継続頻度、ステップレート、時間当たりの消費カロリーなどを計測し、約2−4週間ごとにパソコン画面に運動の量、強度などをグラフ表示し、受診者へのフィードバックと運動の具体的な指導を行います。
 
 スライド21
スライドに示しますように、これは最近のデータですが赤い部分が運動強度の強い部分を示します。この症例は元来運度好きですので、十分な運動を行っていることがわかります。1月21から3月2日までの7週間平均12、000歩、最大で18,000歩800Kcalの運動消費がありますので、一般の人の運動量、高血圧運動療法の至適運動量に比べても多い方です。

スライド22
拡大です。

スライド4 まとめ
降圧剤服用に拒否反応が強いこともあり、当初は運動療法にて経過観察。
ライフコーダを装着して2から4週間毎に、打ち出し、運動量を指示。
その後も血圧の自己測定をするが、降圧は不十分。尿酸高値。
フクダ電子24時間血圧計装着にて、自覚症状とは一致していないが、勤務中や早朝の高血圧がある。
運動療法では十分な降圧が得られないこと、服薬が必要なことを納得して、ニューロタン25mgから50mg/日を開始。
血圧はまだ高めでよいコントロール状態とはいえないが、24時間血圧測定でも、早朝の高血圧は消失。
頭痛、動悸などもなく、現在も服薬継続中。

次に、

スライド24
当院におけるニューロタン使用調査 1
66症例のなかで、継続して6ヶ月以上使用できた51症例について検討しました。
LET (Losaratan Effectiveness & Tolerability) Study によれば、ほかの薬剤に比べて、降圧薬の切り替えは23%:9% と有意に少ないことが報告されていますが、
初回からニューロタン投与は7例、他剤からの切り替えは18例、他剤へ追加投与は20例、ニューロタンで降圧不十分で追加は8例です。そしてニューロタン中止例は4例、血圧が安定的に降下したので経過観察中が5例、転居、来院せずが6例です。

男性 21症例 平均 61.2歳(38−78)
女性 30症例 平均 54.2歳(33−77)

高血圧履歴 6.3年 (6ヶ月から21年)

スライド25
合併症 の有無は、なし 13例  
         あり 38例

狭心症 8例 脳血管障害 5例  閉塞性動脈硬化症 1例
糖尿病 7例 高脂血症  15例 高度の肥満  2例
高尿酸血症  3例 悪性腫瘍 2例 前立腺肥大症 2例 
(重複あり)

他降圧剤の併用   なし 28例 
             あり 23例

Ca拮抗薬 15例 β遮断薬 5例 α遮断薬 6例 
利尿薬    2例 ほか2例

一日50mg 26例 1日25mg 25例です。
西川先生から、薬剤の費用と降圧効果について検討するようご指示があったのですが、Ca拮抗剤は単独ならば安いといえます.

スライド26,27
男女差による降圧作用の検討 1
症例数に差はありますが、高血圧履歴年数、血圧値に差はありません。

スライド28,29
合併症の有無による降圧作用の検討 1
合併症のない群は平均46歳、ある群は61歳と年齢が高くなるほど合併症が増加しています。


スライド30,31
他降圧剤使用の有無による検討 1
年齢は、ニューロタン単剤は、平均55歳、併用群は60歳、高血圧履歴は、ニューロタン単剤は、4.7年、併用群は8.2年です。

スライド32
未治療時血圧による降圧作用の検討
未治療時の平均血圧の高いほど降圧の程度は大きいですが、男女による差はありません。

スライド33
年齢による降圧作用の検討
年齢による降圧については一定の傾向は見られません。

スライド34
1)1991年神奈川の日本臨床内科学会総会における降圧剤の使用薬剤調査
  2)1995年の川崎市内科医会50周年記念事業で行った実地医家における降圧剤の実態調査をみると、
  Ca拮抗薬の使用頻度が、44.2%、ACE阻害剤が20.6%とCa拮抗薬の使用頻度が高くありました。  
  このときの調査では、使用薬剤の種類数は1.4剤であります。
  AU拮抗薬が上市されて1年経過するが、今後の使用動向の変化が注目されます。

スライド35
98年、99年の全国における降圧剤の使用量を金額ベースでみると、Ca拮抗薬は50%、ACE阻害薬は22%、AU拮抗薬は6%となっています。

スライド36
1. AU拮抗薬とACE阻害薬をどう使い分けているか?
2. Ca拮抗薬、あるいはACE阻害薬とくらべても効果の発現がおそいために、変更を希望する患者さんがみられるが、飲みつづけていると、中途の脱落の頻度は低い印象であるが、ほかの先生は如何か?
3.今後、実地医家にも使用できる新しいAU拮抗薬がでてきたときに、どのような薬効上の差があるか?

豊島 十分コントロールされていない高血圧 1,587人中 61%に副作用を経験.
   140−90以下のときは、49%と少ない.

   160−95以下になるのは 73%
   140−90以下は     21%のみ。
服薬指示違反   20%

柊山               28%
   家庭血圧を測る人ほど飲み忘れが少ない.

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