はとりクリニック   羽鳥 裕   212-0058 川崎市幸区鹿島田1133-15  TEL&FAX 044-522-0033 yutaka@hatori.or.jp


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テルミサルタンの使用経験 

横浜ベイシェラトンホテル 高血圧講演会 2003.11.12
はとりクリニック 羽鳥 裕
高血圧診療のガイドラインとして、1997年に米国高血圧合同委員会第6次勧告案(JNC6)が、同年、世界保健機構/国際高血圧学会治療ガイドライン(WHO/ISH)が、さらに日本における高血圧基準JSH2000が相次いで発表された。
さらに、2003.5にJNC7,同6月にヨーロッパで、2003ESC/ESHのガイドラインが発表され、診断治療が明快になった反面、実地医家にとっては困惑する面も出てきた。
PROGRESSを除くと、欧米の研究には脳卒中を一次エンドポイントにおいた研究に乏しい。食塩感受性遺伝子の頻度が高く、脳血管障害、特にsmall vessel diseaseの多い日本人は、脳卒中に一次エンドポイントを置いた研究が必要であるが、日本では数多くの介入試験が不成功に終わっているが、lower the better, lowest the bestであるのかどうか、日本人のデータが必要であろう。1997年の川崎市内科医会30年記念事業で、65歳以上の地域老人検診における症例を集計した、高齢者高血圧治療の実際1800症例の解析や、2002年の降圧剤売り上げと比べても、カルシウム拮抗薬、ACE阻害薬からARBにシフトしている。
 その一方で、ALLHAT研究の結果は、臨床家に衝撃を与えた。
α1-遮断薬が中間検討で外されたこと、心不全で利尿薬を投与されていた群で、急激に利尿剤を中止して他の薬剤に切り替えるなどプロトコールが利尿剤有利に作られていたことも批判された。CCB、ACEI、日本の常用よりも少量の利尿薬の三者に大きな差が出なかったことに対して、多様の解釈があり、黒人が30%ほどしめているため、塩分感受性遺伝子に関連する高血圧に対する反応が強く出たために、利尿薬、CCBに対して反応が良く、東洋人の降圧薬反応に近いものになった可能性もあるといわれている。

 UKPDSでは、糖尿病患者でも血糖コントロールより血圧コントロールの方が予後への効果が大きいと発表された。また、利尿剤+β遮断薬の群でもCCB群でも同程度の降圧で、スタチン併用により、3.3年で予後に大きな差が出たASCOT研究のように、代謝を考慮した高血圧治療も今後話題になると思われる。

 さて、私の診療所は、川崎の下町にある無床診療所であるが、高齢者を抱えて、通院の患者層も平均年齢が65歳を超えている。電子カルテから検索する病名から無投薬・食事・運動療法のみの群も含めて、高血圧の病名がつくものは、550名近くで、世代別に見て年代が上がるごとに高血圧の頻度は増加する。
 A2A、AT1ブロッカー、ARB,サルタンとよばれる日本で上梓されているこれらの4種の薬は、金額ベースでは1位になる勢いである。当院では、ARBは、4種類導入しており、各ARBについて、連続症例も脱落、増量なども検討した。
 今回、ミカルディス投与した64例についてみると、平均年齢:66.8歳, 重篤な合併症例はなかったため、投与開始量は、40mg 61例、20mg開始は 3例にとどまった。
男:女=25:39 家庭血圧測定例数:37例 M/E比測定できた数:37例 投与薬剤数  単剤:39例,2剤:23例,3剤:1例,4剤:1例であった。 合併症としては、インスリン使用3例を含む糖尿病:12例,高脂血症:19例,ステント挿入後などの虚血性心疾患:8例, NYHA3以下の心不全:4例,脳梗塞後不全麻痺:1例であった。 

 サルタン系の薬剤にもクラスイフェクトの面から、それぞれ特徴を持つことが解明されつつある。心臓におけるAT1受容体の活性化について全く新しい機構の存在が明らかとなった。心不全の検討では、ロサルタンのOPTIMAAL,バルサルタンのVALIANTなどが、ACEIをしのぐ結果とはならなかったが、最近の知見では、
心肥大形成にはアンジオテンシンUの結合による受容体刺激のほか、今回伸展刺
激によるAT1受容体の活性化も関与する可能性が示された。また、AT1受容体活性
化に対する阻害作用はARBの薬剤間で異なりAT1阻害作用には2種類ある事が報
告された。

 外来血圧では、全投与の64例の平均では、162mmHg−91mmHgから、149−84になっていた。
 家庭血圧を、早朝と夜間で測れた37例では、早朝155−90から142−82,夜間は、152ー87から、138−81とそれぞれ有意に降圧した。他の薬剤と比べても、早朝の拡張期の血圧が良く下がっている印象であった。
 今井らの方法に従い、就寝前血圧(eΔBP)が、SBP5mg以上、DBP4mg以上の症例をresponder群として、ミカルディス投薬前後での、M/E比の変化率を見ると、収縮期血圧の就寝前は14.5,早朝は13.6の降圧から、M/E比は、82.3%となり、拡張期血圧は、就寝前6.2,早朝8.6の降圧から、M/E比は、108.6%となる。

 70歳以上と未満で分けて検討すると、70歳以上の27例と、70歳未満の37例を分けた。家庭血圧が測定できたのは、70歳以上13例、70歳未満は、24例であった。収縮期の随時血圧、早朝血圧とも高齢者が相対的に高いが、投薬による降圧反応も良い印象であった。就寝前血圧には、両者に一定の傾向はみられなかったが、拡張期血圧は、高齢者での低下が大きく、脈圧の改善がなかったという面からは一概に良い結果とはいえないかもしれない。
一般に、高齢者では腎機能が低下するため腎から分泌されるレニンが減少することが原因で、レニン活性が低下する。高齢者では腎ドパミンの活性が低下し体液Naが増大・貯留する。Naなど電解質の調節能力が低下する結果、高齢者ではレニン-アンジオ
テンシン系が低下し、レニン活性は本系の律速段階であるため、ARBは、高齢者にききにくいことも予想されるが、実際には有効であった。


 バルサルタン使用例のうち、血圧コントロールの難しかった症例で、多剤併用を含めて、ミカルディスに変更した例では、バルサルタン投与前の随時血圧161−86から、143−78、早朝血圧156−85から138−78、就寝前血圧152−87から138−81と例数が少ないが、減少傾向が見られた。随時血圧と、早朝の血圧にその傾向が大きいように思われた。また、反応しない例も見られた。

 また、ロサルタンからの切り替えは6例、カンデサルタンからの切り替えは3例と症例数が少ないが、不応例もあるが、早朝、就寝前ともに、切り替え後の降圧反応はよいように思えた。

 これらの症例のresponder群のM/E比の変化率をみると、収縮期血圧の就寝前は17.4,早朝は16.8の降圧から、M/E比は、96.6%となり、拡張期血圧は、就寝前13.3,早朝11.3の降圧から、M/E比は、85.0%となる。


 連続投与例における変更脱落をみると、初回投与ミカルディス40mg61例、20mg3例、ロサルタン50mg 45例 25mg 13例、バルサルタン 80mg34例、40mg11例、カンデサルタン 8mg46例、4mg5例、 アムロジピン5mg 65例、2.5mg 17例 である。
ロサルタンで、25mg例が多いのは、サルタンの使用経験がなかったために慎重に投与を始めたために25mgでは降圧不十分例が多かったためと考えられる。


 顕性たんぱく尿のない糖尿病 12例のうち投与の平均6月前後で、随時尿中の微量蛋白をクレアチニンで除した値を測定できた6例を見ると、いずれのケースもたんぱく尿減少効果が見られた。
 高血圧の治療目標は、脳心血管系合併症の合併症発症の予防につきる。そのため、動脈硬化を評価して、臨床応用の出来る方法が必要である。血管を伝わる脈波は、管が細いほど、壁が厚いほど、弾性率が高いほど、管腔の物質の密度が低いほど早く伝わる。血圧が高くなると、血管壁張力が増し、伸展性が低下するので、脈波伝搬速度(PWV)は亢進する。PWVは、動脈硬化度と血圧の両者を反映しているといえる。

動脈には、弾性動脈と筋性動脈に分けられるが、第2の心臓と呼ばれる弾性動脈は、心臓の収縮により拍出されてきた血液を伸展拡張し、心拡張期には、弾性により収縮するので、末梢での血流が安定する。動脈のコンプライアンスが低下すると、この効果は減少し、収縮期血圧の上昇、拡張期血圧の減少から、脈圧が増大する。左室後負荷の増加から、末梢側の内皮機能障害から動脈硬化を亢進する。
 PWVの原法は、Bramwellの右総頸動脈と右橈骨動脈間の測定、次に頚動脈と大腿動脈の測定によるcfPWVが始まり、動脈の拍動を探して固定するので煩雑であった。上腕と足首に血圧測定カフの容積脈波からPWVを測定するbaPWVを求める方法が開発され、再現性が高い。
 PWV原法では、ヒト摘出大題動脈から拡張期圧、弾性率で規定されることが
証明されているが、baPWVは、筋性動脈を含む別の部位を測定している。
 筋性動脈は、計測時の温度、器械刺激、薬剤の影響、ストレスなどで血管平滑筋収縮状態が大きく変化する。 baPWVは、原法のPWVと異なり、2倍近く速く、筋性伝搬を強く反映していると考えられ、大動脈よりも下肢動脈の伝搬速度を反映していると考えられる。
 方法に限界があることを譲っても、PWVは、若年から、加齢とともに上昇するため、脈圧が60歳過ぎてから変化するので、より鋭敏な指標といえる。
 これらの前提を踏まえて、baPWVの変化を、ミカルディス投与前後でみると、全体でみると、21.35m・sから19.84m・sと有意に改善した。

 そこで、PWVに影響する因子として、年齢、性別、随時血圧、家庭血圧、尿中微量蛋白、CRTNN値で多変量解析をすると、年齢、早朝収縮期血圧で有意の相関を見た。
さらに、ミカルディス投与の前後での影響を解析すると、認められた影響因子として、年齢,性別,外来時収縮期血圧,外来時脈圧などがあげられた。いずれもばらつきは大きいが、改善傾向が見られた。

 山科によると、12,000名の検診受診者の多変量解析からは、年齢、血圧、性別、血糖、コレステロール、尿酸が相関を持ち、高血圧、糖尿病、高脂血症、高尿酸血症、喫煙、肥満などのリスクを一つでも持つものは男女を問わず有意差があり、特に女性において、閉経後に加速度的に速くなると、述べている。今回の検討では、あまり明快な結果は出ていない。 

 症例を供覧する。
HF 女性 62  家族歴 母 高血圧,妹 子宮癌
既往歴および現病歴 
50歳より,高血圧(160-100mmHg) を指摘,さらに閉経期頃から高脂血症,耐糖能異常を指摘された.
TC 270mg/dl,TG 146mmHg,HDL-C 45mg/dl, FPG 120-140mg/dl,HbA1C 6-7%台で,60歳よりディオバン40mg,リピトール10mgを服用.糖尿病については,カロリー制限,運動指導を受けるが内服などはない.
2003.12 娘さんのところへ転居のため,当院へ紹介状を持たされるが,遠方にすむ超高齢の母の介護で忙しくし,約2月の間,休薬した.
理学所見: 身長147.2cm,体重55.6kg BMI 25.7,体脂肪率 31%
呼吸音清,心音純,浮腫なし
坐位BP 176-96mmHg,HR 78/分,不整なし、眼底 KWIS1H1糖尿病眼底はなし
急激な血糖コントロール不良があるため腹部超音波,CTなどで悪性腫瘍は否定的
 胸部レントゲンで心拡大、心電図では、負荷心電図を含めて異常なし。
経過を示す。
経過 : 初診時紹介状の文面よりかなり血圧も高く,前医処方ディオバン40から80mgへ増量するも,1,2週間後も血圧降下せず,糖尿病の増悪が見られた.
来院時検査 : HbA1C 12.5%,FPG 222mg/dl, TC 234mg/dl,TG 146mg/dl,LDL-C 111mg/dl,Cr 0.80, UA 4.5,WBC 5670,Hb 15.1,CRP 0.8, 尿中微量アルブミン(U_MA/Cr) 35.3
ペンフィル30R 16U(8-0-8),ベイスン0.2 3T追加にて,糖尿病コントロール,眼科診察を毎月行うが,糖尿病性眼底の増悪は見られない.
2003.10現在,インスリン中止,血糖コントロール良好のため,インスリン漸減,経口薬にて経過観察中.血圧、心拍数も安定した。
 2003.5、日本内分泌学会総会において、神奈川県の内科学会会員にアンケートを求め、約400名 25%の回答率での結果から、家庭血圧を治療に参考にする医師は、75%を超えている。
 第一選択薬に、CCBを選ぶのは50%を超えるが、ARBは、ACE阻害薬をしのぐ勢いであり、降圧不十分の催に追加するものの割合も増加している。特に第一選択薬にCCBを選んだ場合には、ARB40%近く、ARBを第一選択薬にした場合は、CCB、次に利尿薬が出てくる。
 私のところでも、1990年と、2003.9の実数を比べると、CCB37%ARB23%,ACE阻害薬18%利尿薬10%、β‐遮断薬6%等となっている。

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