降圧作用があるといわれる アミールS 「ラクトトリペプチド」の上手な使い方について
慶廬義塾大学医学部内科 猿田 享男教授 のお話から 00/12/09 更新
高血圧治療の目的は、上昇した血圧を低下させることはもちろんであるが、重要なことは降圧により高血圧症に伴う標的臓器障害や心血管合併症の発症を予防または改善することによって、患者のQ0LおよびADLの改善ならびに生命予後を改害することにある。近年さまざまな降圧薬が登場し、以前に比べて血圧管理が比較的容易になったことから、臓器障害の予防・改善による生命予後、機能予後、生活の質の確保も視野に入れた高血圧治療が重要になっているといってよいだろう。特に、160/100mmHg末満の軽症患者では、畏期予後改善を考慮した治療が大切と思われる。
そこで、猿田享男教授に、わが国において繁用されている降圧薬であるCa拮抗薬とACE阻害薬の長期予後改善効果上のメリット・デリメットや、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害活性を有する食品「ラクトトリペプチド」の上手な使い方などについて、1999年2月に改定されたWHO(世界保健機関)/ISH(国際高血圧学会)のガイドラインや、わが国の諸先生方の行っている高血圧治療の特徴は、利尿薬、β遮断薬、α遮断薬、αβ遮断薬、Ca拮抗薬、ACE阻害薬そしてアンジオテンシンI(AU)受容体拮抗薬の7種の薬剤を第1選択とし、さらに合併症などを有する場合には、できるだけ早期からの降圧薬の開始を挙げている。ところで、わが国は欧米に比し、脳卒中が多いという特徴がある。いうまでもなく、脳卒中の発症防止のためには、いかに血圧を低値に保つかである。そのため、降圧薬選択においては降圧効呆に重点が置かれ、降圧効果に優れているCa拮抗薬が日本の多くの先生に繁用されている。また、副作用が少なく比較的安全な長時間作用型のCa拮抗葉が登場したことも、Ca拮抗薬が繁用される理由と思われる。しかし、Ca拮リスクの層別化:WHC/ISHのガイドライン抗薬とACE阻害薬のどちらが優れているか、ひとことでいうことはできない。すなわち、患者背景や合併症などを考慮して、この患者にはCa拮抗薬、この患者にはACE阻害薬という具合に、降圧薬は患者一人ひとりの病態を十分考慮して選択すべきであろう。
Ca拮抗薬の特徴は、降圧効果が早く現れ、確実な降圧効果をもたらす点である。また、自覚的な副作用が非常に少ない点もメリットである。Ca拮抗葉のよい適用として、まず狭心症がある。また、高齢者では動脈硬化を発症していることが多いため、諸臓器循環の改善を期待し、安全性なども考慮して、長時間作用型Ca拮抗薬が第一選択となる。さらに、未梢循環不全に対してもCa拮抗薬のメリットは大きい。これに対して、ACE阻害薬はCa拮抗薬に比して降圧効果が弱いというデメリットがあるが、糖尿病や高脂血症など代謝障害を有する患者に適するほか、軽度の腎障害を有するものでは腎保護効果が期待できる。また、心肥大を有する患者や虚血性心疾息、心不全の患著では、心肥大の退縮効果など、臓器保護作用を有するACE阻害薬のメリットが大きい。
高血圧治療のガイドラインでは、降圧目標は140/90m皿Hg未満、腎障害あるいは糖尿病を合併する場合には、さらに低い血圧コントロールが推奨されている。そして、降圧薬は少量から開始し、効果が不十分な場合増量しながら、目標値まで下げるとされているが、単独で最大量まで増量するよりも、変更あるいは少量併用を優先することが推奨されている。降圧薬の少量併用療法は、副作用を避けるとともに、降圧機序の異なる互補的な薬剤により相乗的な降圧効果を期待できる点で有用である。推奨される組み合わせとしては、先に挙げた7種の降圧薬から組み合わせることになるが、なかでもCa拮抗薬とACE阻害薬の併用はオールマイティーであると考えられる。すなわち、腎障害や糖尿病あるいは心血管障害を有する場合ではまずACE阻害薬を投写する。一方、とにかく血圧を下げたい、あるいは高齢者であるといった場合には、Ca括抗薬を投与する。そして、それら単独で効果不十分な場合には、ACE阻害薬便用例にはCa拮抗薬を、Ca拮抗薬使用例にはACE阻害薬を追加している。また、Ca拮抗薬とACE阻害薬の併用では、臓器保護作用も期待できる。なお、ACE阻害薬では20%程度の頻度で、副作用として咳を認める場合があるので、そのような場合にはACE阻害薬代わりにA1受容体拮抗薬を投与する。なお、併用療法の欠点には、併用によりコンプライアンスが悪くなる可能性があること、また医療経済面での間題もある。わが困における高血圧患者は約3300万人と推測されているが、その多くは中等症以下の患者である。また、高血圧予備軍として現在、約1500万人が潜在するものと推測されている。したがって、軽症高血圧患者および予備軍に対して、高血圧の進展と合併症の発症をどのように予防していくかが、重要な課題となっている。いうまでもなく、高血圧の治療において、非薬物療法すなわち生活習慣の改善は高血圧治療の基本である。特に、軽症および中等症の高血圧患者の治療は、まず生活習慣の改善から始まる。ガイドラインにおいても、高血圧以外のリスク各リスク群ごとの縄対リスクと期待される治療効果:WHO/ISHのガイドラインリスク層別対リスクファクターが少ない患者ではただちに薬物療法は行わず、生活習慣の改善により経過を観察することを勧めている。私どもでも、初診時160/100mgHg未満の患者は、ただちに薬物療法を行うことなく、まず食塩制限、K、Mgの積極的摂取、肥満の解消、運動など生活習慣の改善を指導している。一般に高血圧は、罹病期間の経過とともに徐々に重篤化するが、早期から食事療法など生活習慣の改善により、その進行を阻止あるいは遅らせることは可能である。また、高血圧の家族歴を有する人の場合では、現在、正常血圧あっても、将来高血圧となる可能性があることから、生活習慣の改善が勧められる。さらに、生活習慣の改善は、高血圧に高頻度で合併する糖尿病や高脂血症などの進展阻止にも効果がある。したがって、降圧効果のみならず合併症予防の点からも、生活習慣の改善、特に食事療法が重要である機能性食品の降圧作用を有する「アミールS」などの特定保健用食品が、食品による高血圧治療として脚光を浴びている。私ともも、生活習慣改善を指導する際、「こういう食品もありますから、使ってみてはいかかですか」と推奨する場合もある。しかし、このような食品による高血圧治療を勧めるうえで、注意しなければならない点がある。いかに降圧作用があるとはいえ、薬剤ではなく、あくまで食品であるということである。私どもが実験では、「アミールS」の降圧効果は収縮期血圧が5〜6mmHg程度、拡張期血圧が2〜4皿lHg程度下降するにとどまり、降圧薬に比し、その降圧効果は小さい。「アミールS」はアンジオンテンシン変換酵素阻害活性を有するため、若年者や高レニンを示す高血圧に対して、より降圧効果が認められるが、それでもその降圧効果は軽度である。「アミールS」には、降圧薬のような強力な降圧効果は期待できないが、そのマイルドな効果は長期にわたる高血圧治療を考えるど、有用な治療法と考えられる。また、アンジオテンシン変換酵素阻害活性を有するため、長期間の使用により弱いながらも動脈硬化予防や臓器保護効果も期待できるのではないだろうか。したがって、血圧が高めの人や高血圧の家族歴を有する人が、生活習慣として1日1本の「アミールS」を早期から飲用することにはメリットがある。また、Ca拮抗薬などACE阻害薬以外の降圧薬を服用中の患者が飲用することも、理にかなったことである。「アミールS」がアジオテンシン変換酵素阻害活性を有することから、ACE阻害薬と同様の副作用の出現が考えられる。事実、私どもが行った実験では軽度ながら咳の出現を認めた。また、ACE阻害薬の妊婦への投与は禁忌であることから、「アミールS」においても避けるべきと思われる。さらに、咳などACE阻害薬の副作用は経時的に出現するため、長期間の服用では注意を要する。特に、患者のなかには、効果があると思うと多量に飲用する人がいるので、過剰摂取に対する注意が必要であろう。ただL1日2本程度なら問題ないだろう。いずれにしても、薬物療法を行わない軽症高血圧患者および高血圧予備軍に対して、生活習慣の改善を指導することは重要であり、その際、「アミールS」などの降圧作用と臓器保護作用が期待できる食品を上手に活用することは、治療上有用なことと恩われる。