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##2002.8痛風・高尿酸血症の新しい基準##

 

 

02/10/20 に更新しました。

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高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン」を且常診療でどのように活用するか
2002.10 朝日メディカル より

1大阪府立成人病センター 臨床検査科医長 中島弘先生

日本痛風・核酸代謝学会では、2002年8月1日、「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン」を発表した。高尿酸血症・痛風は、現在では生活習慣に深く関わるcommon diseaseとなっているが、本ガイドラインは、高尿酸血症をマルチプルリスクファクター症候群の一翼を担うものとして捉え、現時点でのエビデンスに基づく治療指針を具体的に提供するものになっている。
そこで、本ガイドラインの作成に取り組んできた大阪府立成人病センター参事の中島弘氏に、血清尿酸値の取り扱いを中心に、本ガイドラインの日常診療での活用の仕方などについて解説して頂いた。

従来の高尿酸血症・痛風の管理基準としては、大阪大学・松澤佑次教授が会頭として開催された1996年の第29回日本プリンゼリミジン代謝学会(現・日本痛風・核酸代謝学会)コンセンサスカンファレンスで、中島氏らが提唱した「6-7-8のルール」が知られている。これは血清尿酸値の取り扱いの目安基準を当時の専門医のコンセンサスとして提言したものであったが、同時に中島氏は生活習慣病、マルチプルリスク、尿路管理のキーワードを定着させることにも貢献してきたことで知られている。今回のガイドラインは、各種の生活習慣病が心血管合併症の危険因子として注目され、治療には科学的な根拠(エビデンス)が要求される時代になったことを踏まえて、あらためて学会の自主的活動として(財)痛風研究会の援助のもとで作成された。現時点で存在するエビデンスを明らかにしながら、高尿酸血症・痛風にどのように対応すべきかを示すものになっている。
中島氏は「本ガイドラインでは、根拠が明らかな治療は強く推奨し、そうでない部分については何がわかっていないかを明確に示す努力をした。医療経済効果だけを考えて医療の標準化をめざしたものではなく、患者さん一人一人のオーダーメイド医療に必要な情報を集大成し、本来のEBMの趣旨が守られるように努力したつもりだ」と話している。

本ガイドラインでは「高尿酸血症を痛風予備軍としてだけではなく全身的代謝異常(生活習慣病)と捉え、全身の健康管理の必要性を強調したこと、尿路管理を尿酸降下療法と並んだ独立した治療と位置付けたことなどが注目すべき特徴であり、血清尿酸値の管理については6-7-8のルールを基本骨格として踏襲したうえで、現時点でのエビデンスを再確認して、さらに詳しく説明したと考えて頂きたい」と中島氏は説明する。
まず、血清尿酸値の正常上限は従来どおり7.Omg/dLとし、随伴する症状の有無とは関係なく、血清尿酸値7,Omg/dLを超えたものを高尿酸血症と定義した。そして、痛風発作などの症状のないことが無害であるかの印象を与えがちな「無症候性」高尿酸血症という呼称は避けることにした。
痛風発作や既往がない高尿酸血症の場合、従来、7.0〜8.Omg/dLでは経過観察とされていたが、今回のガイドラインでは、肥満やアルコール過飲の是正などを中心とした生活療法、クエン酸療法も含めた尿路管理、マルチプルリスク管理の対象として位置付けた。
要治療ゾーン(薬物治療の適応)は8-Omg/dL以上であるが、痛風関節炎の発生頻度が9.Omg/dL以上になると急増するエビデンスがあるので、新たに9.Omg/dL以上を尿酸降下療法の積極的適応とし、9.Omg/dL未満は相対的適応とした。つまり、8.Omg/dL以上9.Omg/dL未満は、痛風の既往歴や家族歴、虚血性心疾患や高血圧、糖尿病などの危険因子を有するなど、痛風およびその合併症のリスクが高いと考えられる場合にインフォームド・コンセントの上で尿酸降下療法を開始するという、オーダーメイドのゾーンにしたのである。
治療目標は従来どおり6.Omg/dL以下とした。尿酸降下療法の薬剤選択は、病型分類に基づき、排泄低下型にはユリノームなどの尿酸排泄促進薬、産生過剰型には アロシトールなどの尿酸生成抑制薬を、禁忌例を除いて定期的な副作用チェックをしながら少量から使用することが具体的に明記された。また、尿酸降下療法の有無にかかわらず、pH5.5未満の酸性尿が持続する場合は尿アルカリ化薬(ウラリットーU)の絶対適応としている。

今回のガイドラインで示された血清尿酸値の管理基準の背景には、痛風関節炎、腎障害、尿路結石、心血管合併症に関する数多くのエビデンスがある。このなかでも注目されるのは高尿酸血症と心血管合併症の関係であるが、中島氏によると「1990年代後半以降、高尿酸血症がマルチプルリスクの存在を示す良好なインジケータであり、心血管疾患の独立した危険因子であることを示すエビデンスが国内外で蓄積されてきている」という。{列えば、Aldermanらはプロスペクティブなコホート研究により高血圧患者では血清尿酸値の上昇により心血管疾患の危険率が高まることを報告しており、わが国においても冨田、箱田らが日本人の疫学成績から同様にリスクであることを示している。中島氏らも、最近発表したPCSStudyのサブ解析において、高尿酸血症が虚血性心疾患患者における心血管イベント再発の独立した有意な危険因子であることを明らかにした。
したがって、高尿酸血症の治療では尿酸値を下げるだけでは意味がなく、生活習慣の是正によるマルチプルリスク全般の低下のなかで、まず内因性に尿酸値が低下するように努めることが重要となる。薬物による尿酸降下療法は生活習慣を是正しても高尿酸血症が残る場合に、高値のまま放置すれば明らかに発作や腎障害の危険が高まるために適応になるのであり、リスクファクターの是正にはあくまでも生活療法が優先されるのである。そのためには、インフォームド・コンセントをきちんと行い、患者さんが高尿酸血症の治療に自らの意志で積極的に取り組むように指導することが必要となるが、本ガイドラインはそのためのガイドになると考えられるという。内臓脂肪症候群を提唱した松澤教授の門下であり、バイオエシックスに精通したことでも知られる中島氏らしい貢献ぶりといえる。例えば、血清尿酸値7.Omg/dLを超えた患者さんには「すぐには痛風発作は起こさないが、このような身体の状態はまた心血管疾患を合併するリスクがある」ことをエビデンスを引用しながら説明することが可能となるからだ。
中島氏は「今回のガイドラインには、高尿酸血症・痛風の現時点でのエビデンスが網羅されており、患者さんに対するインフォームド・コンセントの重要なツールになると考えている。また、ダイジェスト版は診療現場でのquickreferenceとして編集してあるので、フルバージョン版と併せて、高尿酸血症・痛風の日常診療に積極的に活用して頂きたい」と話している。

 

 

 

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日本痛風・核酸代謝学会では、2002年8月1日、「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン」

 

 

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