はとりクリニック   羽鳥 裕   212-0058 川崎市幸区鹿島田1133-15  TEL&FAX 044-522-0033 yutaka@hatori.or.jp


全体のトップ | 病気のトップ| |この項目のトップへ | 高血圧 | 心臓病 | 高脂血症 | 糖尿病 | 呼吸器 | 消化器 |スポーツ医学 | 運動療法| 著作・講演集 | そもほか |  

     ここが知りたい   処方薬のやさしいマニュアル 不整脈   ホスピタウン 月号 寄稿      2003.8      

               

 



<第6回>  処方薬のやさしいマニュアル   不整脈


動悸やめまいを頻繁に感じたら不整脈を疑い
心電図検査で原因を突き止めよう


誰にでも起こり得る心臓の病気「不整脈」。近年では効果の高い治療が確立されつつあるが、発症すると短時間で死に至るものもある。脈の乱れや動悸を感じたら、迷わず医療機関で心電図検査を受けよう。もし病的な不整脈と診断された場合は、どの種類の不整脈であるかを明らかにし、治療薬の服用やカテーテル焼却術、ペースメーカーの使用など、もっとも効果的な治療を選択する必要がある。


電気刺激のリズムや 流れに狂いが生じる

 心臓は、外部からの刺激を受けなくても自分で動く“自動能”という性質を持っているので、上からの命令が途絶えても自分で収縮する事がで得きることが、他の骨格筋と違うところ。自動能の収縮リズムは心臓の部位によって異なり、“洞結節”では1分間に40〜50回、“心房”では40回、“心室”では30回である(図参照)。つまり、最低30回のリズムで全身に血液を送ることができるのだ。
 この心臓が、洞結節において脳からの電気刺激を受けることにより、洞結節の収縮リズムが、心房、心室へと順に伝わり、リズミカルな拍動を生んでいる。また、心房と心室の間には“HIS束”という結節があり、HIS束が0・12〜0・2秒の電気刺激のタイムラグ(時間差)を作り出すことによって、心房が収縮した後に心室が収縮するということで、少ないエネルギーでも効率よく血液を送り出せる。この一連の流れのリズムに狂いが生じた状態を「不整脈」と言う。
 不整脈には、大きく分けて、脈が速くなる「頻脈」、脈が遅くなる「徐脈」、脈が乱れる「期外収縮」がある。また、これらの不整脈が起きている部位や原因によって、病名はもちろんのこと症状や治療方法も異なってくる。


メンタルストレスでも発症する頻脈    薬物療法やカテーテル焼灼術が主流

「頻脈」とは、大人の安静時で1分間に50〜60回の脈拍数が、100回以上になる場合を言い、症状として動悸や息切れがみられる。種類としては、心房粗動・心房細動・上室頻拍など心房の異常で起きる「上室性不整脈」、心室粗動・心室細動・心室頻拍など心室の異常で起きる「心室性頻脈」、HIS束とは別に心房と心室を結ぶバイパスがあるために起きる「WPW型頻脈」がある。「WPW型頻脈」とは、通常は心房から心室に電気刺激が送られるのだが、これが逆方向に送られてしまう状態で、「回帰性不整脈(リエントリー)」とも呼ばれている。頻脈の治療には、“薬物”“電気的除細動器(いわゆる電気ショック)”“植込み式除細動器(電気ショックを起こせるペースメーカー)”などを用いるが、最近では、異常の原因箇所を高周波で焼き切る“カテーテル焼灼術”が、胸の手術を受けずにできる根治的治療として適用されることも多い。
 運動、貧血、甲状腺機能亢進症、メンタルストレスなどでも頻脈になるが、これらは生理的な反応である。また、心疾患が原因で頻脈を引き起こす場合もある。
 心臓は1度の収縮につき約80ー130cc(1分間で約4−6リットル)の血液を全身に送り出しているが、心筋梗塞後や拡張型心筋症、肥大型心筋症の心臓では、1回の収縮力が落ちたり心臓の内腔容積が減っているため、体が必要とする血液を送り出すには収縮の回数を増やさなければならなくなる。こうしたメカニズムが「頻脈」に繋がるわけだ。


副交感神経優位時に起こる徐脈
ペースメーカーが効果的

 一方、「徐脈」は、脈拍が1分間に50回以下の場合を言い、めまい、失神、強い鼓動、動機、息切れなどがみられる。生理的なものとしては、就寝時など交感神経よりも副交感神経が優位に働いている場合に起きる。また、頻脈と同じく、心疾患が原因で起きる場合もある。その代表例が、虚血性心疾患の心臓に多くみられる「房室ブロック」だ。
「房室ブロック」は、電気刺激の中継点であるHIS束に血液が行き渡らず、HIS束が作り出すタイムラグに異常を来たしている状態だ。症状の軽い方から順に、通常0・12〜0・2秒秒のタイムラグが0・25〜0・3秒になる『・度』、タイムラグが徐々に長くなり、ある程度の長さになると脈が抜けてリセットされたり、タイムラグは一定だが急に脈が抜ける『・度』、HIS束が全く働かないために心房から伝わるべき電気刺激が遮断(ブロック)され、心室が自動能だけで動く『・度』に分類される。『・度』では、心房の収縮数(体の要求)と心室のそれとの差異を埋めるために、心室に電気刺激を与える必要がある。この時に使うのが“ペースメーカー”であり、徐脈の代表的な治療方法だ。


早期診断と心電図検査を受け 原因を明らかにしよう

 実は、徐脈に関してはスポーツ選手に多く見られる疾病である。日々のトレーニングにより、心臓の性能がよくなり、安静の時はゆっくり動けば事が済む。また、自律神経系の調節機能が変化し、心臓に対して促進的に働く交感神経活動の低下などが起こると言われている。また、自律神経の発達していない子供では、息を吸ったり吐いたりするだけで脈が乱れる「呼吸性の不整脈」が起きやすい。これらも含め、生理的な反応で生じる不整脈は、それ自体に治療の必要はない。ところが、心臓疾患を抱えた心臓は、「房室ブロック」などめまい、失神などの不整脈の原因となり得るだけでなく、生理的不整脈を、生命にかかわる危険な不整脈に変えてしまう可能性が高い。
 不整脈をあなどることなく、脈の乱れを感じたら専門医の診察と心電図検査を受け、治療を要する不整脈なのか否かをはっきりさせる必要があるだろう。特に、心疾患を抱えている方は、不整脈に注意を払う必要がある。


不整脈の種類がはっきりしたら   服薬かペースメーカーか治療方法を選択

頻脈の種類と治療薬

心房細動に効果的な服薬
心室細動には電気ショック

頻脈と一言で言っても、実は2種類が存在し、心房に異常がおきる「上室性不整脈」と、心室に異常がおきる「心室性不整脈」に分けられる。ここでは、2種類の頻脈について解説しよう。

●上室性不整脈●
「心房細動」は、一種の老化現象とも考えられ、冠状動脈血流不全から心房が洞結節の電気刺激を上手く受け取れず、あちこちで興奮状態が生じ心房内を回旋するものや、肺静脈を中心に局所起源のものなどがある。1分間に200〜300回の収縮が起きる。拍動のリズムが一定でないため、心耳に血栓ができやすく、それが全身に回ると脳血栓や肺血栓につながる。新鮮なうちは除細動器が効果的だが、時間が経ってしまった場合は、V群(ジギタリス)や・a群の薬を使う。血栓を取り除くために医科用バファリンや少量のアスピリンと併用するのもよい。「心房粗動」「上室頻拍」は、心房の動きが一定のリズムで激しくなり、それが心室に伝わって心室が1分間に100回以上動かされる。治療薬は心房細動と変わらないが、・群では薬は禁忌である。「上室性期外収縮」は、一定のリズムの途中にイレギュラーな収縮が入る。1分間に5回以内であれば治療の対象にならないが、5回以上で頻脈が出る場合は、1または2(ばけもじ??)群。ジギタリスの治療薬などで治療する。心房粗動は、三尖弁を回旋して頻拍を生じているタイプがあるので、カテーテル焼却術によって根治になる可能性もある。

●心室性不整脈●
「心室細動」は、心臓がいきなり激しく震えた後に収縮しなくなり、血液循環がストップする。約10秒で意識不明になり、約4分で脳死状態になると言われる非常に致死率の高い不整脈で、2分以内に除細動器を使わないと命を取り留めるのは難しいだろう。「心室粗動」「心室頻拍」は、心室の動きが一定のリズムで速くなり、心室細動の前段階であると考えられる。心房のそれとは違って生命にかかわるだけに、要注意。治療薬としては、・群や・群を用いるが、植込み型除細動器を使う患者も増えてきている。「心室性期外収縮」は、心房性期外収縮と同じ仕組みであるが、孤立型と連発型、また単一性と多形性がある。連発型かつ多形性については、心室細動に移行しやすいのでかなり危険だ。



抗不整脈薬の分類

薬は功罪が背中合わせ   投与・服用には細心の注意を

 不整脈の治療に用いる薬は、大きくわけて5つに分かれる。<・群>の段階で使用されるNaチャネル遮断薬は、興奮を促す作用のあるNa(ナトリウム)が細胞内に侵入するのを防ぐことによって心臓の収縮を抑える薬であり、持続時間によってさらに3種類に分かれる。<・群>のβ遮断薬は、脈を速める交感神経のβ受容体を遮断することで、脈を遅くする薬である。<・群>は、活動電位の持続時間を長くする薬、<・群>のCa拮抗薬は、心臓を収縮させる働きを持つCa(カルシウム)を抑制する薬、<V群>のジギタリスは迷走神経を介して洞結節への刺激を抑える薬である。
 それぞれ、一定の効果があるが、一方で、治療薬の役割を明確にする臨床試験の結果から、一部の薬(Ic群や・群)で肺腺種などの副作用が生じたり、また、服用することによって突然死が増加しているケースもみられた。医師には、飲み合せや飲む量も含め、患者の状態に即した投与が求められている。

心臓への電気刺激

症状に応じて使い分けされる  ペースメーカーと植込み型除細動器

『ペースメーカー』は、「房室ブロック」などの徐脈に対して効果的である。鎖骨の下に埋め込んだマッチ箱大のバッテリーから太い静脈を通ってリードが心臓の内腔に伸び、リードの先から出る電気刺激によって、心室が一定のリズムで拍動する。ただし、心臓が自らのリズムで拍動した場合には、そちらを優先してペースメーカーは働かないようにセンサーも内蔵されている。種類としては、リードが右心室にのみ伸びた通常タイプ、知覚した体温や体の動き(加速度を関知)にあわせて拍動数を変えられるタイプ、「洞機能不全症候群(徐脈と頻脈の併発)」に効果的な心房と心室の両方にリードが伸びたタイプ、左右の心室にリードが伸びた両室タイプがある。両室タイプは約4年前から使用され始めたが、高度の心不全の治療において非常に良い成績を収めている。
 同じように外部から電気刺激を与えるもので、頻脈の治療に用いられるのが『植込み型除細動器』だ。これは、心室細動や心室頻拍など致死率の高い頻脈が起きると、自動的かつ瞬間的にそれを感知して電気を流し、一時的に心臓の動きをリセットすることによって心臓の自動能を引き出すものである。ただし、大きさがペースメーカーの約2倍というデメリットも存在する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


全体のトップ | 病気のトップ| |この項目のトップへ | 高血圧 | 心臓病 | 高脂血症 | 糖尿病 | 呼吸器 | 消化器 |スポーツ医学 | 運動療法| 著作・講演集 | そもほか |



 

HATORI CLINIC HATORI Yutaka MD,PhD, 1133-15,Kashimada,Saiwai,Kawasak,Kanagawa,JAPAN   all rights reserved 1991 mailto:yutaka@hatori.o

r.jp