RA系の元祖たち・新世妃のRA系に向けて
RA系(レニン・アンジオテンシン系)とは何か(1999〕
監修:福岡大学第二内君教授荒川規矩男氏
RA系は陸へ上がった物のためのボンベ
RA系の起源は,生命が海から陸へ上がってきた3億年前に端を発する。今,我々が水中に潜るとき空気ポンベを必要とするように.海中生物が陸上で生活するにあたっては 潜水ボンペか それに代わるものが必要だったはずである。
陸上ではNaが汗や尿から失われる一方で,海水中と違ってその補給がきわめて困雄であるからだ。
そこで,この役割を果たす装置として創造主が作リ給うたのがRA系であった。RA系は,海水と同じ組成をもつ我々の体液の恒常牲を維持するため,主にNaと水を蓄えるシステムなのである。
よく知られているように,腎臓は糸球体において1日140Lもの尿を作り,その90%を再吸攻するという,一見全く不合理な作業を行っている。これは,老廃物を排泄しながら,休内の水と電僻質を一定に保つために欠かせない作業だが,生物が海水中にいたときには必要のない機能であった
(魚のなかには糸球体をもたない種類さえある)。
陸上では食物中のNa含量がきわめて少ないため、この状態で漣過だけ行うと.体内のNaはたちまち低下し血圧も下がり生禽の危機に陥る。
これを防ぐため濾過を行うと同時にNaを再吸収する仕組み(ー>RA系,が作り上げられたのである。
このメカニズムにおいて.傍糸球体装竈の尿細管糸球体フィードバック機構(TGF)とともに重要な役刮を果たすのがRA系である。
ヒトの食塩摂取量の減少(同時に休液の減少) は,マクラデンサに到違する原尿のNaCl濃度で感知される。このシグナルでTGFが作動し.輸入細動脈を掘張する。一方,RA系にもスイッチが入り,レニンが分泌され,アンジオテンシンU(AU)が生じる。AUは.動脈ことに輸出細動脈を収縮させて腎糸球体漣過圧を上げてごれを保ち.またアルドステロンを介して遠位尿細管のNa吸収を促進する。RA系はこのように,TGFとの櫨同作業で,食塩摂取豊の多少にかかわらず腎機能を保ち,体液の恒常性を維持してしているわけである。
遺伝子研究からも裏付けられる血圧と食塩とRA系の関わリ
では.このようにNaの摂取状況と密接な関係をもつRA系が,なぜ高血圧と結びつ<のか。
人類は,その長い歴史のなかではごく最近になって,食塩を欲しいときに欲しいだけ摂攻できるようになった。高血圧に関してはこの点こそ請悪の根元であり,食塩の過剰摂取と高血圧を結ぴつけるのがRA系といえるのである。
食塩摂取量のきわめて少ないパプア・ニューギニアの原住民や.アマゾンのヤノママインディアンにおいては,最近まで高血圧がみられなかった。ところが近年.食生渚の西欧化に伴って高血圧恵者が現れるようになった。この事実は.高血圧の食塩起源説を裏付けている。RA系と高血圧の関わりは,シリーズの今後で詳述される予定だが.興味深いのは,最新の遣伝子研究がこの問置に続々と新しい知見をもたらしている点であろう。
近年,種々の疾患に関して,疾患感受性遺伝子の検索が盛んに行われている。高血圧についても多くの遣伝子が研究されているが,その有力候補の多くがRA系に関わるものである。なかでも高血圧患者の罹患同胞対を用いた検討で見出されたアンジオテンシノーゲン遺伝子の
M235T多型 (exon2の235番目のメチオニン(M)がスレオニン(T)に変異したもの。)
は,血中アンジオテンシノーゲン濃度と血圧を上昇させることが確目された。そして,このタイプの遺伝子多型の頻度を人種別に調べたところ,白人では約40%,日本人では約80%,黒人では約90%という著しい人種差がみられたのである。
アフリカのサバンナに生まれた人類にとって,体内に水-食塩を貯めるのに適したこのT235型は,生存に有利な遣伝子型 (THRIFTY
GENOTYPE:倹約遺伝子型)であった。ところが,その後の履境の変化.特に食塩の過剰によって、この遺伝子型ゆえに高血圧を発症しやすくなった。そして,アンチ高血圧の新しい変異としてIが生じたと考えられる。食塩を知らない野生動物が,地上で生き抜くために作られた巧妙きわまりないシステムが,塩をふんだんに摂取できる現代の人間の環境になって邪鷹になるケースもでてきた。これが,現在のRA系の姿なのである。
したがって高血圧の治演では.まず減塩を行い,ACE阻書剤やアンジ才テンシン瓜A2)受容体拮抗藁(ARB)でRA系を抑制することが,その成因に最も接近した,降圧療法の基本線として位置付けることができるだろう。
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日本人、黒人は、Na倹約に適した遺伝子型を持つ
食塩濃度にかかわらずアンギオテンシノーゲン濃度が上がる Na保持 RA系の食塩感受性が低い。