私の選んだ常備薬 

20−1 今月の薬剤

 

抗血栓薬(抗血小板薬)

 羽鳥 裕 (医療法人社団はとりクリニック)

 

 当院の特徴

 当院は、循環器診療、運動療法を中心に診療を行っている。臨床スポーツ医学会評議員、県体育協会スポーツ医学委員会委員長、川崎市健康スポーツ医部会部会長、川崎市体育協会副会長、神奈川県予防医学協会の人間ドックの総括、事後指導などを現在も行っている。トレッドミル、乳酸測定などを用いて至適運動強度、運動量を推定する内科運動療法を行っている。会社健診の事後フォロー、近隣病院からの逆紹介にも対応するために、病院での治療との落差をなくすため、血液生化学検査もドライケミなど院内検査を用いて、当日結果をおしらせする。川崎は多くのIT産業があり、ご自分の病気にも高度の知識を持つ患者さんもおられるので、頭ごなしの説明よりは治療法を選択してもらい、誤った観念をお持ちの方には理論的に是正するなど、一筋縄ではいかない患者さんには個人対応の診療スタイルが要求される。一方、当地はもともと下町で、高齢の方も多いので、内科全般の検査も必要であるため、老健法にもとづく健診、寝たきり老人の往診、在宅ハイテク治療、内視鏡など消化器検査も行っている。医師会の諸事業にも関わる世代になったため、国保、基金の審査員をつとめ、4月から川崎市医師会理事として、医療情報、健康スポーツ医、産業医を担当しているため、午後の診療が一部代診になるなどおろそかになっているのが気にかかるが、電子カルテDYNAMICSの運用をはじめ、スタッフも慣れてきたので、電子化のメリットが生かせるように努力したい。

 

 常備薬

 バイアスピリン

 抗血小板薬には、心筋梗塞の一次予防、二次予防、脳血管疾患による死亡を有意に減らす数多くのメタアナリシスがあり、臨床試験の90%以上がアスピリンである。一日に服用させる量は、至適用量がJカーブであることから80mgから150mg/ 日が推奨される。血小板のCOXを阻害作用により、TXA2生成を抑制する抗血小板作用がある一方、高用量のアスピリン投与により血管内皮に対しては、血小板凝集阻止をするPGI2の生成を抑制するために抗血小板作用の阻害する(アスピリンジレンマ)ため、低用量の投与が望ましい。一方で、アスピリンによる胃粘膜障害は、少ない量でもおきる。腸溶錠は、消化管プロスタグランディン値を下げることから、緩衝錠81mgよりも、内視鏡所見からみて優れているとする論文が多い。

 

 ワーファリン

 心術後のフォロー、肺梗塞、脾臓摘出後、動脈閉塞症の症例など、病院からの逆紹介例では、ワーファリン維持療法を求められることが多い。心房細動新鮮例などでは、ワーファリン導入を行うが、初回大量投与を行うwarfarin loading dose法より比較的少量からはじめるdaily dose法を採用している。凝固法の測定には、投与前にPT,トロンボテスト(TT)測定を行い、投与中にはTTにてフォローするが、欧米の基準よりやや甘く10から25%を目標に投与量を設定するが、変動が大きいため投与量の変更に苦慮することがある。

 

 コメント

 

 保健適応ではないが実地では止むを得ず使われる薬があり、また数多くの治験が進行中である。パナルジンには、保健上は、虚血性心疾患への適応がないが、抗血小板、抗血栓作用のほか血流のレオロジー改善効果があるが、肝障害、白血球減少に注意が必要である。プレタールは、虚血性心疾患、脳血管障害への適応がないが、上記のほかに血管拡張作用もある。ほかに、EPAのエパデール、PG製剤のドルナー、糖尿病性末梢血管閉塞にはリプルなど注射製剤も使用する。今後、内皮細胞の保護、血小板機能の改善、抗凝固作用をもつ夢の新薬開発と、現在上梓されている薬にも臨床に即した適応拡大のためにメーカーと厚生労働省の協力が望まれる。

 

 

羽鳥 裕   HATORI  Yutaka

川崎市医師会理事  医療情報システム、健康スポーツ医部会、産業医部会 担当

医療法人社団はとりクリニック

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