ブルセラを、yahooなどで引くと、とんでもない記事がでてきますが、これは立派な動物人間相互感染の病気です。先日北加瀬の夢見が崎動物公園で発生しました。
◆ブルセラ症
ブルセラ症はブルセラ属菌による人獣共通感染症である。食料や社会・経済面のみならず共同生活者としても動物への依存度が強い国や地域ではいまだに重要な感染症の一つである。一方、多くの工業国では動物のブルセラ症対策が行き届いた結果、人のブルセラ症も減少した。これらのことは人のブルセラ症の発生が保菌動物の存在に依存していることを示している。
疫 学
本症のおもな分布域は地中海地域、西アジア、およびアフリカとラテンアメリカ等で、一部地域では増加傾向にあるとされる。流行地で報告される発生数には大きな幅があるが、動物に対するブルセラ症対策が行われていない地域での報告が多い。動物間でブルセラが流行している地域で人の感染率が低く報告されている場合にはサーベイランスや報告システムの不備である可能性を疑う。一部の国々では、本来ヒツジと山羊を自然宿主とするB.melitensis
、およびブタを自然宿主とするB.suis がウシに定着して人への感染源となり、公衆衛生上の新しい問題となっている。
ブルセラ症は感染動物の乳や乳製品の喫食、感染動物(ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ラクダ、バファロー、野生反芻獣、および希にアザラシ)やその死体および流産組織との接触によって感染する。酪農・農業従事者、獣医師、屠畜場従事者には職業的な感染のリスクが高く、実験室内感染もある。
病原体
ブルセラ属には多様な菌種が含まれることが示され、B.abortus, B.suis, B.neotomae, B.ovis, B.canis,
そしてさらに最近では海洋動物に病原性を示すB.maris も分離されている。このうち公衆衛生的にはB.melitensis 感染の問題が大きく、家畜に対して重要なのはB.abortus
によるウシの感染である。ブルセラ属菌の系統的な相関関係はrRNA の塩基配列によって解析される。最も近縁な菌は日和見感染の原因ともなる環境菌Ochrobactrum
anthropi で、この菌はブルセラ特異的PCR によっても検出されブルセラ菌は食細胞、非食細胞のいずれにも感染しうるが、細胞への接着と侵入に関与する遺伝子および菌体成分は明らかではない。菌体成分のうち免疫防御を誘導する主要な抗原はS‐
LPS で、菌の細胞内生残に関与している。S‐ LPS は腸内細菌のLPS と異なり、内毒素感受性のマウス、ウサギ、ニワトリ胎児に対する毒性およびマクロファージに対する毒性が低く、発熱性と低鉄血症誘導能も低い。これらはいずれも実験によって明らかにされたことであるが、ブルセラ菌の自然宿主に対する病原性発現の機序には不明の点が多い。
臨床症状
ブルセラ症の潜伏期間は通常1‐3週間であるが数カ月に及ぶ場合もある。症状は他の熱性疾患と類似しているが筋肉骨格系に及ぼす影響が強く、全身的な疼痛感、倦怠感、衰弱、および鬱状態と、持続的、間欠的、または不規則な発熱が見られる。一部では泌尿生殖器の症状が顕著である。症状は軽症で自然治癒する場合もあるが重症化することもある。病気の期間は2‐3週間から数カ月間である。
病原診断
病原体については血液培養による診断が有効で、発熱時の、なるべく抗生物質投与前の血液、リンパ節生検材料、骨髄穿刺材料などを対象とする。培養はB.abortus
である場合を考慮し、炭酸ガス培養を行う。37 ℃で2‐14 日間培養し、菌数の少ない菌血症の検索には増菌培養も行う。ブルセラ属菌は小さい正円形、半球状にやや隆起した表面平滑なコロニーで、3
日以上の培養で直径1.5‐2mm になる。菌はグラム陰性の短桿菌で単在することが多く、長い連鎖は作らない。両端濃染性を示さない。予備的な同定は形態、培養性状、および血清学的方法で行う。確定同定はファージ型別、酸素代謝、または遺伝子型別によって行う。ブルセラ属菌は研究室感染の危険が最も高い病原細菌の一つであるため、材料はBiosafety
Lebel 3 基準を満たす条件で取り扱うことが望まれる。
ブルセラ症は多くの場合慢性経過をたどり、有症状期でもすでに抗体を保有していることが多いため日常的な診断で血清診断の持つ意義は大きい。血清反応のうち標準的に行われる試験管凝集反応は操作と判定が容易で、市販の家畜用の標準菌液を準用することができる。感染早期では2‐
メルカプトエタノール感受性のIgM 抗体が検出される。活動型の感染はIgA とIgG 抗体の検出が指標となる。
治療・予防
ブルセラ菌にはテトラサイクリンなどの抗生物質が有効であるが、細胞内寄生であるためリファンピシンやキノロン剤などの抗生物質を併用する必要がある。成人の急性ブルセラ症に対するWHO
の推奨治療法は600‐900mg/日のリファンピシンと200mgのドキシサイクリンを6 週間投与する方法である。髄膜脳炎や心内膜炎等の合併症がある場合にはリファンピシン、テトラサイクリン、およびアミノグリコシド剤を併用する。小児で合併症がない場合にはリファンピシンとコトリモキサゾールの併用が推奨される。抗生物質耐性のブルセラ属菌の存在も知られているが、その臨床的な意義は明らかではない。
現在、弱毒変異株を用いたワクチンの開発が行われているが実用化には至っていない。実際的には人のブルセラ症の予防は感染動物の根絶および乳と乳製品の適切な加熱処理、予防接種、および検査陽性動物の殺処分(Test
and Slaughter)などを始めとした獣医学的な対策が有効である。これらの方法によって人のブルセラ症の発生が激減した国や地域が多い。
感染症新法の中でのブルセラ症の取扱い
ブルセラ症は、第4類の全数届出疾患に定められており、診断した医師は診断から7日以内に保健所に届け出る必要がある。報告のための基準は、以下の通りとなっている。
《報告のための基準》
○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ以下のいずれかの方法によって病原体診断や血清学的診断がなされたもの
・病原体の検出
例:血液、骨髄その他の組織からの菌の培養・同定など
・病原体に対する抗体の検出
例:試験管凝集反応(1 :160 倍以上の力価)
補体結合反応、競合酵素抗体法では急性期と寛解期で4倍以上の力価上昇など
(国立感染症研究所 獣医科学部 神山恒夫、細菌部 渡辺治雄)