症例報告  1999.5.23  神奈川県保険医協会にて

 

オーストラリアマダニによる紅斑 

      実地医家が稀有な症例に遭遇したとき
川崎市幸区 はとりクリニック 
羽鳥 裕
e-mail yutaka@hatori.or.jp
症例 46歳、男性 
生来健康、既往歴 なし、家族歴 特記すべきことなし、職業 自営、趣味 クルーザーヨットマン 
シドニー・ホバート間の外洋ヨットレースに参加するために、1998.12 に渡豪。ヨットレース航行中に、背部に痛み。かなり荒天のために処置せず。レース終了後違和感あるも放置、そのま帰国。1999.1.5帰国後、痛みと痒みにて来院。
現症
身長168cm 体重62kg
来院時現症 37.5℃、背部に直径12cmの発赤、中心に淡緑色の弾力のある緊満性の直径7mmの半球の腫脹を認めた。頭部から胸部まで深く嵌頓し、摂子にて虫体を引きずり出すと、シャーレの中でゆっくりと動いた。その場では診断できず、虫体を保存して、予防医学協会へ。さらに虫体は旭川医科大へ、血清は国立感染症研究所へ運んで、マダニを介在するスピロヘータ感染症ライム病の疑いで精査となった。


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免疫電気泳動
国立感染症センター
川端寛寿先生提供
IgM1回目陽性2 回目陰性
IgG1,2回目とも陰性
考察
マダニの刺咬による人畜共通感染症としてのLyme病は、マダニによって媒介されるスピロヘータ Borrelia の感染によって惹き起こされる。北米、ヨーロッパでは、年間5万人以上の発症が知られている。
1976年、コネチカット州Lymeで小児の流行性関節炎として報告があり、原因不明とされていたが、1982年、病原菌としてのBorreliaが同定されて、細菌感染症であることが判明した。
2
本症例は,本邦人ダニ寄生2例目である。
外国での感染は、ネパール,マレーシアでみられることが多い。
本ダニの標本サイズから8*5mmから感染7日目と推定された。  
血清学的検査から,ライム病ボレリアと推定されるが,回帰熱などとの交叉反応も考えられる。しかし、血清学的に北半球のボレリア考現と若干異なる可能性がある。
臨床症状
第一期
マダニの刺咬数日後から数週後に出現する遊走性紅斑、移動性の関節痛、発熱、頭痛、易疲労感がみられる。
第二期
遊走性紅斑の出現の後、数週から数ヶ月後に、神経および循環器系の病気に進展し、髄膜炎、神経根炎、房室ブロック、急性心膜炎を続発する。
第三期
慢性関節炎、萎縮性肢端皮膚炎、脳脊髄膜炎、角膜炎
地域により、Borellia の種類の差により症状が異なる。
日本における媒介マダニ
シュルツェマダニ 北海道、本州高地
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Borellia保有率は、5−20%
遊走性紅斑を呈する。
神経症状の例はない。
ヤマトダニ     比較的低地
明らかなライム病の発症は知られていない。
シュルツェマダニの刺症例
診断
マダニ刺咬の有無
痛み、痒みがないこともある。
マダニは、数日から一週間、人、動物に吸着し吸血しつづけて数mmから10mmを超えるまでに吸血しつづける。
吸血が終わると、自然脱落する。
吸血途中で発見したときは、外科的に大きく皮膚切除する。
遊走性紅斑は多くに見られるが、みられないこともある。
血清学的診断
酵素抗体法
ウエスッタンブロット法
商業ベースでは行われない。
国立感染症研究所、静岡県立大学微生物学教室で受け付けている。
確定診断
感染病巣からの病原体分離
紡錐形の切開、表皮,真皮,皮下脂肪を含むように切開線をいれて切除。
Borreliaの培養のため,切開した組織の半分を使用。残り半分は組織診断に使用。
マダニが媒介するほかの感染症
紅斑病リケッチャ
野兎病細菌
Q熱病リケッチャ
回帰熱(シラミの回帰熱もある)
羊脳炎 獣医    フラビウイルス
ロシア春夏脳炎 フラビウイルス Level4
極東ダニ脳炎
反省点
虫体摘出前に、文献調査するべきだった。
常に写真を取れる環境にしておくべきだった。
稀有な感染症に対しては、感染症ホットラインなどの構築が望まれる。