硝酸塩薬(しょうさんえんやく)

 

1879年にニトログリセリンが臨床応用された。

1974Cohn 心不全治療法 リモデリング

1994GISSI-3

1995ISIS-4

AHA/ACC task force

硝酸薬の耐性

硝酸塩(亜硝酸)薬の作用機序は、NOを産生させて、主に静脈系の血管拡張をおこす。心臓の前負荷,後負荷を軽減し心筋の酸素需要を減らす。内因性のNOが細い冠動脈にも拡張作用があるが、亜硝酸薬は太い冠動脈のみを拡張する。全身循環が収縮期に流れるのに、冠循環は拡張期に流れるという違いがある。冠血流の調節は0.3mm以下の細い冠動脈で調節される。NOが50%近くの冠血流量を支配する。NOは不安定なradicalで、半減期は3から5秒である。局所の潅流圧の調節は、血管平滑筋の筋性調節により流量を一定にしようという働きと、潅流圧に応じて血流を局所に増やそうとするNO調節機構がある。血管内皮に、ずり応力(shear stress)がかかると、血管内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)が活性化され、グアニル酸シクラーゼ、cGMPの増加、平滑筋Caイオン濃度を下げて、血管を拡張させる。NO、プロスタサイクリン、利尿ペプチド、アドレノメデュリン、トロンボモデュリン、サイトカインなどの発現が見られる。内皮から十分なNOがでてこないと、動脈効果、冠攣縮などがおきやすくなることがわかってきた。日本人に多い冠攣縮はこのeNOSの遺伝子異常が示唆されている。

 血管拡張作用、心不全、発作回数、運動耐容能の耐性がある。これは,経口、経皮、静注によっても生じる。SH基の減少により硝酸が還元、NO産生の低下ほかが考えられている。安定狭心症に経口徐放型、経皮吸収型の亜硝酸薬が多く用いられるが有効であるかの判定は難しい。FDAの勧告により、すべての亜硝酸薬は血中濃度を変化させることを求められている。硝酸薬の耐性は時間とともに回復するので、休薬時間をおいた間欠投与がすすめられる。発作の起きやすい時間にあわせて、耐性を防ぎつつ、発作予防に努める。ニトログリセリンは、firstpass効果が100%であるので、経口は適さない。舌下、スプレー、貼付、静注である。硝酸イソソルビドのfirstpass効果は80%程度であるので内服が可能となる。

 

 

 

 

 

 

カルシウム拮抗薬

 

欧米と異なり日本には不安定狭心症の30%が有意な冠狭窄を認めない冠攣縮狭心症がある。最近、血管内皮型NO合成酵素(eNOS)活性が低下し、eNOS遺伝子に変異をおこしていることがわかり、これが欧米と異なりCa拮抗薬の反応性の差があると推定されている。

ジヒドロピロジン系

 

脳、心、腎への血流低下がない。

虚血性心疾患

Ca拮抗薬を少量投与、起床時血圧が高いときは夜間高血圧も考え、夕食後投与、降圧不十分ならば、ACE阻害薬追加。頻脈には血管拡張作用の有するβ遮断薬を追加。再発予防に抗血小板薬(アスピリン、チクロピジン)

ABCD,FACETなどのトライアルでACE阻害薬がCa拮抗薬に比べて糖尿病合併の高血圧における心事故が少ないとされている。糖、脂質代謝,インスリン抵抗性を改善し、腎症合併糖尿病の尿たんぱく減少、GFRの改善などがある。さらに、アンギオテンシンU拮抗薬は同様の効果があり、ACE阻害薬で空咳がでる症例に有効で尿酸を下げる作用を併せ持つものもある(ニューロタン)

 

 

 

β受容体とβblocker

 自律神経は交感、副交感神経に構成され互いに拮抗・協調して不随意的に調節している。交感神経系の興奮により、神経終末からノルエピネフリンが、副腎髄質からエピネフリンが分泌され、遊離したこれらの物質を受容するのが受容体(レセプター)であり、α、βアドレナリン受容体と呼ばれる。最近の遺伝子クローニングによりα1、α2、βがさらに少なくとも3種類ずつ9種以上存在する。β受容体は、細胞膜を7回通過する1本鎖のアミノ酸糖タンパクである。β1、β2、β3にわけられるが、アミノ酸配列の相同性からはいずれも約50%とかなり高い。β1受容体は心臓、血管、大脳皮質にあり、心拍数増加、収縮力増加、刺激伝導系促進作用などが知られている。β2受容体は、毛様体弛緩作用、気管支筋弛緩(拡張)作用、冠動脈、動脈・静脈血管拡張作用、子宮弛緩作用、肝・骨格筋内グリコーゲン分解作用が知られる。最近、β3受容体の存在が確認され、交感神経を介する脂肪分解に関する褐色細胞の脂肪組織、腸管に存在する。

β1選択性  β2受容体には気管支拡張、末梢血管各庁、グリコーゲン分解作用があり、ASO,DM合併には使いやすい。

内因性交感神経刺激作用(ISA)は、安静時の心拍数低下、心機能の低下作用が少ないので高齢者には使いやすい。

親油性のβ遮断薬    は、血液―脳関門を通過するので、中枢作用が出現することがありうつ状態、悪夢がでることがある。また、高度の徐脈、房室ブロック、心不全の増悪をおこす。長期に使用している場合、リバウンドがおきるので、急な中止は狭心症を増悪させることを理解して徐々に減量する。

       

労作時狭心症

心筋虚血は、心筋酸素需要が、酸素供給を上回ったときにおきる。β遮断薬は、心拍数減少、動脈圧減少、心筋収縮性減少によって心筋酸素需要を減らせる。α1受容体は心筋収縮力増強もおこすため、α遮断作用があるほうが有利。αβ遮断薬は好ましい。

 

禁忌 安静時(冠攣縮)狭心症、ジヒドロピロリン系のCa拮抗薬を使用している例、糖尿病、高脂血症(ISA(-))、心不全、閉塞性動脈硬化症、喘息などCOPD

β2遮断によるインスリン分泌の低下、低血糖時の、β2受容体刺激によるグルカゴン分泌抑制による、低血糖からの回復遅延、カテコラミン分泌抑制による低血糖時の震え、動悸の症状が抑えこまれてしまう。

脂質への影響トリグリセリドの上昇、HDLコレステロールの低下。

脳血流の低下、脳自動調節下限域の上昇をもたらすが、新しく開発されているβ遮断薬は血管拡張作用、脳血流維持、脳自動調節下限域の改善をもたらす。

狭心症合併糖尿病において、β遮断薬を併用するときにはβ1選択性またはα1遮断効果をあわせもつもの(アルマール)などを少量用いる。

拡張型心筋症には、常用量の10分の1ぐらいから使用する。劇的な改善が見られるときもある。

 

降圧作用:β1遮断により、心拍数減少、心拍出量の抑制、レニン遊出抑制、中枢性β受容体遮断、シナプス前β受容体遮断による。最近腎血管拡張作用、血管平滑筋Kチャンネル開口作用Caチャンネル拮抗作用を持つものもある。

 

 

眼圧低下作用:β遮断薬は房水産生を減少させる。

 

 

 

抗不安作用:心悸亢進、振戦など精神性アドレナリン遊離の特徴を抑える。

β1選択性(心臓選択性)遮断薬

β遮断薬はほとんどラセミ体である。左旋鏡像体は右旋よりも100倍活性が高い。内因性交感神経活性作用(ISA)は、

 

 

 

Withdrawal syndrome:β遮断薬投与を急に中止すると、狭心症の増悪、血圧の再上昇が起きるが、β遮断薬投与により受容体数の増加が起きて超感受性による。

 

気道抵抗の増加:気管支の緊張はβ2受容体を介してコントロールされる。喘息の患者では、注意が必要で、β1選択性の薬剤でも1/50程度の作用は残るので原則禁忌となる。

 

β2選択性遮断薬はいまはない。

 

脂質代謝への影響:脂肪組織における脂肪分解抑制、肝でのVLDL合成、および長期的には自律神経の影響。TG>HDL>TCの順で影響

 

スポーツ関連では、β遮断薬服用時の心拍数の抑制を理解して、むやみに目標心拍数に追い込まぬことが大事である。

また、射撃、弓道などで集中力を惹起するために服薬するとドーピングに相当することを理解することが必要である。

 

 

 

 

 

心膜炎(しんまくえん)

 心膜炎・心筋炎は、種々の原因があり胸痛、心膜摩擦音、心不全兆候、心電図異常で気づかれる。病初期に安静が保てるかが心機能、生命予後に重要である。

心膜炎は、感染、外傷、膠原病、放射線治療、腎不全、肺がん、乳がん、悪性リンパ腫、白血病などの悪性腫瘍、低蛋白血症、アミロイドーシス、甲状腺機能低下、人工透析などさまざまの要素がある。心タンポナーデをきたせば、心膜穿刺による貯留液排除が必要となる。膠原病が原因であれば、ステロイドの大量投与が必要であり、細菌感染が原因であれば抗生剤の長期大量投与が必要となるので確定診断が必要である。

1. ウイルス性は、感冒症状に引き続いて、胸痛、いきぎれなどで気がつく。心電図に変化が出てくると、炎症が心筋にまで及んでいることを示す。運動選手にとってこの時期に激しいトレーニングをすることは、心機能の低下・致死的不整脈を誘発する危険があり禁忌である。聴診,心不全兆候の確認、心エコーで心筋の動きと、心膜液の貯留に注意する。直接証明は、心膜穿刺による心膜液からウイルスの存在、間接的には、血清ウイルス抗体価の上昇、咽頭ぬぐい液のウイルス分離によって得られる。

 2.細菌性は、心内膜あるいは弁膜に疣贅とよばれる起炎菌の感染巣があり,全身に多彩な症状を惹き起こす。おおくは、先天性・後天性心疾患などの心の基礎疾患を有するものに発症する。(native valve endocarditis) また、弁置換後に発症する場合もある。(prosthetic valve endocarditis) NVEには、緑色溶連菌、黄色ぶどう球菌が多く、PVEには黄色ぶどう球菌がおおい。感冒の診断で、抗生剤の短期投与の後、再び発熱を繰り返す場合は本症を疑う。血栓塞栓による諸症状(Osler結節斑、Roth斑など)は有名であるが、聴診による心雑音心膜が粗造になっておきる心膜摩擦音、心エコーによる、心膜液の貯留・疣贅の検出がすすめられる。結核性のものはしばしば血性であり、菌の検出も困難で、診断は難しい。また,収縮性心膜炎への移行もあるのでステロイド併用が必要になる。

確定診断は、頻回に行う血液培養である。起炎菌を同定し、PC GまたAB-PC,かつ、aminoglycoside(GM)併用の頻回注射を4―6週間行うので入院が必要となる。

 3.収縮性心膜炎は古くは、結核性、最近は開心術後にあり心室の拡張障害が本質であるので、心膜切除など外科処置を必要とすることがおおい。

スポーツ関連では、かぜ症状後の体動時の息切れ、倦怠感が、心膜炎の他覚的にわかる最初のサインとなることがあるので、監督、トレーナーなどは見逃さないようにしなくてはいけない。

 

 

 

 

 

 

抗凝固療法(こうぎょうこりょうほう)

 

 抗凝固療法は抗血栓療法のひとつである。抗血栓療法には、線溶療法、抗血小板療法、抗凝固療法の3法がある。線溶療法は、血液凝固のカスケードの活性化を抑制し、血栓の生成・増大を防ぎ、すでに形成されたフィブリンネットワークを分解し、血栓を縮小消失させる治療法である。

 抗血小板療法も、血液凝固のカスケードの活性化を抑制する。1969にアスピリンの血抑制作用の発見からFDAから抗血栓薬の承認を得、米国心臓病協会の急性心筋梗塞治療のガイドラインで治療薬と認定された。主に動脈系に形成される血小板とfibrinで構成される白色血栓は,この抗血小板療法が有効である。その後、さまざまな薬が開発され、酸化窒素(NO),血小板膜糖蛋白(GP)、粘着能抑制、コラーゲン凝集、ずり応力惹起血小板凝集抑制作用を併せ持つGPUb/Va inhibitorなどある。クロピドグレルはチクロピジンよりも副作用の点で優れている。ほかに、シロスタゾール、PGIU誘導体、EPA,セロトニン拮抗薬などがある。

 抗凝固療法は、静脈系や鬱滞した動脈系に多い活性化した凝固系の産物であるfibrinが主体の赤色血栓を融解させる治療である。抗凝固薬使用には血液モニタリングが必要である。トロンボテスト(TT)を用いるが、試薬により治療効果の比較ができないため、現在ではINR(international normalized ratio)で、INRで二つの治療域(高、低)が設定され、血栓症の少ない日本ではINR3以下の低治療域(TT10-16%)が推奨されている。代表薬のワーファリンは、vitaminKと拮抗し作用が安定するまでに一週間かかる。また、投与初期に一過性の凝固亢進があるために、抗凝固の導入にはヘパリン併用が必要である。

ワーファリンのほかに、ヘパリン、ATV製剤、FOY,フサンなどがある。

抗凝固薬の適応  深部静脈血栓症の予防(長期臥床、術後など)、肺塞栓症、急性心筋梗塞、不安定狭心症、人工弁置換後、心腔内血栓症、心房細動、DICなどが適応である。

注 PTCA,POBA,STENTにおいては、ヘパリン+ワーファリンから”早い血流の動脈血栓”予防という観点からもアスピリン、チクロピジン、シロスタゾールなどが推奨されている。循環器疾患のリハビリ目的の場合や一般のスポーツ愛好家にはこれらを服用するものが多いので、熟知することが必要である。また、骨粗鬆症で用いられるVitK拮抗薬はワーファリン服用者では禁忌となる。