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##2002 スポーツにおける熱中症##

 

 

02/06/30 に更新しました。

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スポーツ活動における熱中症
2002.6.29.13:00
  (財)川崎市体育協会主催 川崎市教育委員会、川崎市医師会講演川崎市生涯学習プラザ
(医) はとりクリニック       羽鳥 裕
TEL 044-522-0033 mail to: yutaka@hatori.or.jp
川崎市幸区鹿島田1133−15
川崎市医師会理事
(健康スポーツ医部会・産業医部会・医療情報担当)
神奈川県体育協会スポーツ医学委員会 前委員長
川崎市医師会健康スポーツ医部会 前会長
1.はじめに

 この指導者講習会におけるスポーツ医学の講習は、スポーツ導者として、スポーツにかかわる医学を広く指導者に知っていただきたく企画されています。
 川崎市体育協会並びに傘下の諸団体と、健康スポーツ医部会を窓口とする川崎市医師会との綿密なネットワーク確立のためご要望をお寄せください。
今回の講習を受けられさらに研鑽したい、又、講習内容、実際の指導、実際の競技・練習・試合などの運営に当たりまして、質問・疑問があるときには、ご連絡をください。また、個別の競技やけが故障の研修会も企画していますので、ご希望をお申し付けください。

 川崎市内の中学高校で、3年前に3件の死亡事故、1件のニアミス事故がありました。このうち2件は、熱中症が深く関与していることが示唆されています。正確な統計はなかなか把握できないのですが、スポーツに関わる熱中症はきわめて多く、その対処が遅れると選手の生命に関わる、また指導監督者に対する訴訟も増えてきています。

2.熱中症とは?

 体の中と外の"あつさ"によって引き起こされる、様々な体の不調であり、専門的には、「暑熱環境下にさらされる、あるいは運動などによって体の中でたくさんの熱を作るような条件下にあった者が発症し、体温を維持するための生理的な反応より生じた失調状態から、全身の臓器の機能不全に至るまでの、連続的な病態」です。 熱中症は、炎天下あるいは閉め切った室内競技など高温多湿のスポーツ活動中に起こるもののほかに、インド、エジプト、メッカ巡礼などの真夏の熱波により、高温環境で起こるもの、真冬でも日差しの中、車の中で放置されたり、鋳鉄などの作業で暑熱環境での労働で起こるものなどがあります。特に暑熱環境に弱い乳幼児、高齢者、肥満者、虚弱体質のものは容易に危機にさらされることになります。
 労働中に起こるものについては、労働環境改善などにより以前に比べ減少してきているとされていましたが、近年の経済状況の悪化、本来業務の妨げにならぬような労働時間の設定などで、予想とは逆に、労働に関わる熱中症は増加傾向にあります。
 また、スポーツなどにおいては、一時増加傾向にあり、その後減少に転じましたが、下げ止まりの状況になっており、依然、死亡事故が無くならない状況にあります。特に学校管理下での突然死が一定の割合で発生しスポーツに関連して起きている熱中症発症の突然死統計に占める割合は、必ずしも減ってはいません。

 熱中症というと、とんでもなく暑い環境においてのみ起こるもの、という概念があるかと思われますが、スポーツ活動中においては、体内の筋肉から大量の熱を発生することや、脱水などの影響により、寒い、涼しいとされる環境でも発生しうるものです。実際、11月などの冬季でも死亡事故が起きています。さらに、十分なプレコンディショニングを行わずに運動を始めると、運動開始から短時間(30分程度から)でも発症する例もみられます。
  
3.熱中症の分類 (名前に混乱がある。)どんな症状が重いのか?
 熱中症は、いくつもの症状が重なり合い、互いに関連しあって起きます。
 また、軽い症状から重い症状へと症状が進行することもありますが、きわめて短時間で急速に重症となることもあります。 熱中症は、大変に身近なところでおきていいます。そのため、十分にその危険性を認識しておくことが必要です。
 ただし、熱中症の分類は混迷している。これは日本語においても、英語においても同様と考えられ、このことが症状や緊急性の判断を難しくさせ、手当や診断に影響を及ぼしていると考えられています。
高温環境下における生体障害を総称して『熱中症』と呼びます。熱中症には、1)日射病、2)熱痙攣、3)熱疲労、4)熱射病の4つの病態が含まれます。
 日射病は、多くの人が経験したことがあると思います。炎天下で長時間立っていたり、座っているときに起こります。急に気分が悪くなり、眼前が暗くなる感じがして倒れます。時に、一過性に意識を失うこともあります。
 熱痙攣は、特殊な状況下で起こることが多い病態です。高温多湿の環境で、多量の発汗をしながら水分のみの補給を行っていると起こります。『こむら返り』のように有痛性の筋肉の痙攣が起こりますが、意識を消失することはありません。
 熱疲労と熱射病は、同一の原因によって起こると考えられ、重症度の違いによる相違だと言えます。炎天下でのマラソンや運動、車内に閉じ込められたい、長時間サウナに入っている時に起こります。
 熱疲労と熱射病が、前2者と大きく異なる点は体温の調節機構が破綻している点です。つまり、高温環境で水分の補給が充分でなく、発汗による体温調節ができないことが原因です。体温調節が破綻することが原因ですから、必ずしも高温環境とは限らず、高齢者や幼児のように体温調節機構が不十分であったり、発汗を抑制する薬剤を服用している人で起こりやすいと言えます。

 帝京大鈴木先生の総括を引用させていただくと、熱中症の違いを理解するには、その病態の違いを理解する必要があります。 日射病の主な病態は相対的な循環血液量の減少による循環障害です。炎天下に曝されると、特に頭頚部が熱せられると生理的な反応として末梢血管の拡張が起こります。この反応自体は合目的的反応で、末梢血流を増加させて熱の放散を高めるわけです。したがって、循環血液量そのものは保たれているにもかかわらず、末梢血管抵抗の低下によって血圧が低下し、脳血流が減少するために一過性の意識障害を伴います。したがって、静脈還流が回復すれば、意識も血圧も回復します。
 熱痙攣の主な病態はNaClの喪失による低張性脱水です。高温多湿の環境で運動し、水分のもの補給を続け、塩分の補給を行っていないと、低ナトリウム・低クロール血症となります。水分の補給はあるので発汗は著明ですし、体温の上昇を伴うことはありません。痙攣と言っても全身の痙攣ではなく筋肉の不随意な攣縮で、いわゆる『こむら返り』と同様有痛性の随意筋の収縮です。したがって、通常意識障害を伴うことも、知覚障害を伴うこともありません。
 これら2者と異なり、『熱疲労』と『熱射病』は体温調節の破綻により体温が上昇していることが大きな特徴です。高温多湿の環境で水分の補給が不十分で、発汗による低温調節が限界に達すると体温の上昇をきたしてきます。

 熱疲労と熱射病の大きな違いは、高体温による臓器障害があるかないかの違いです。その境界となる体温が41℃前後である。41.5℃以上になると細胞内のミトコンドリア機能が障害され、42〜43℃になると数分で細胞障害は不可逆的になると言われています。
 熱疲労では、体温の上昇は40℃(41℃とする教科書もある)以下で体温による細胞障害はなく高度の脱水によるhypovolemic shockが病態の主体です。したがって、血圧は低下し頻脈(hypovolemic shock)で、発汗は著明ですが体温調節が及ばず体温の上昇を伴っています。このまま放置すれば、高度の脱水のため発汗はできなくなり、体温の上昇が持続して高体温による細胞障害(多臓器障害)を伴う熱射病に至ってしまいます。したがって、早急に体温を下げるための冷却処置を行なうとともに大量の補液を行なわなければならない。  更に『オーバーヒート』してエンジンが焼き付いた状態が熱射病です。多くの場合医療機関に到着する時点では既に発汗も停止し皮膚は乾燥し紅潮していて触ると熱いのが普通です。体温の測定は中枢体温が重要で、体表から冷却されていると腋窩体温は深部臓器の温度を反映しなくなってしまいます。体温は41℃を越え、種々細胞障害の所見が見られます。具体的には高度の脱水に伴って、意識障害、ショック、肝逸脱酵素の上昇、腎不全(無尿、BUN、Crの上昇)、筋逸脱酵素の上昇、血液凝固異常(DIC)の所見が見られます。したがって、細胞障害の程度が予後を左右し高体温となってからの時間が長ければ当然予後は不良となります。

4.熱中症の治療 重さに応じて速やかに

 日射病では末梢血管抵抗の低下による相対的な循環血液量減少ですから、涼しい場所に移し、循環血液量補充のため輸液をしたり、下肢を上げるなどして静脈還流を増やすだけでも回復します。

 熱痙攣の病態はNaCl喪失による低張性脱水ですから、意識があれば経口的に水分とNaClの補給を行います。輸液ではNaClを補給するため生理的食塩水や細胞外液補充液を投与します。

 熱疲労は、放置すれば高度の脱水のため発汗ができなくなり、体温の上昇が持続して高体温による細胞障害(多臓器障害)を伴う熱射病に陥ってしまいます。したがって、早急に体温を下げるための冷却処置を行なうとともに大量の補液を行なわなければならない。

 熱射病では、如何なる手段をもっても冷却して体温を下げないと時間とともに細胞が破壊され続けます。臓器障害が進行し、多臓器障害となれば予後が不良なことは容易に想像できるでしょう。

5.どうすれば体温を下げられるか?

 熱疲労や熱射病では、極力速く体温を下げる処置が必要になります。体温の調節・管理の方法は、次の2つに分類されます。
 体表から冷却(ないしは加温)する方法と、体腔内から直接冷却(あるいは加温)する方法です。
 体表からの冷却は一般に効率が悪く、体腔からの冷却の方が速く中枢体温を低下させる効果があります。あまり低い温度で体表を冷却しますと、皮膚の血流を低下させて熱の放散を抑制しようとする生理的な反応が起こります。また、振戦(shivering)が起こって熱の産生も起こります。そこで、アルコールや温水のスプレーなどによる気化熱を利用した冷却法や一定の温度で冷却できるcoolingマットなどによって冷却します。

 体腔からの冷却法では、冷水による胃洗浄や膀胱洗浄、あるいは胸腔や腹腔を直接冷却した生理的食塩水で還流すると言った方法が行われます。最も急速に中枢体温を調節できるのは体外循環によって直接血液を冷却する方法です。

6.指導者が持っていなければならない7つ道具

メディカルチェックノート 
預かっている生徒、受講者の体調を正確に把握
   基礎疾患はあるのか?あるならば何か?
   今日の体調は ふつうか? よくないのか?
             特に発熱、下痢、食欲に注意。

正確な温度計 できれば湿球黒球温度

体温計    できれば鼓膜体温計(みみっぴ)

大量の飲み水 電解質飲料水も含む

救急車を呼べる体制  信頼できる人 
メンツを捨てる 正確な状況把握

救命救急処置の実技  
意識は? 呼吸は? 脈拍は? 血圧は?

朝、実技環境を予測・把握する 今日の気象図を読む
今 今の環境条件を測定  温度、湿度、風流をはかる
今後、これからまだ暑くなるのか? 湿度は?風は?
   競技を続けていいかの判断 決断
   インターネット 携帯電話の活用

7.WBGT計(湿球黒球温度)

屋外:WBGT=0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度
屋内:WBGT=0.7×湿球温度+0.3×黒球温度
○環境条件の評価はWBGTが望ましい。
○湿球温度は気温が高いと過小評価される場合もあり、
 湿球温度を用いる場合には乾球温度も参考にする。
○乾球温度を用いる場合には、湿度に注意。
 湿度が高ければ、1ランク(上の)きびしい環境条件の注意が必要。  

参考 
1.横紋筋融解症
 筋肉内の発熱により、急激な筋崩壊 
 腎臓尿細管に崩壊組織の沈着 無尿 血液透析
 CK(CPK)の異常な上昇

2.水分摂取の具体的な方法 (大塚製薬より)
成人の場合
☆運動前 <30分前>
  糖質入りイオン飲料を250〜500ml
☆運動中 <細めに随時>
  気温・運動強度を考えて500〜1500ml
☆運動後 <素早く>
  失った体液とグリコーゲンの回復を十分に
   失った分だけ : 目安→体重の減少分


救急救命処置 ガイドライン2000
これによる世界標準が発表された 
日本も採用 指導団体によるずれががなくなった
Bystanderによる一次救急
救急のA,B,C,
スポーツの突然死はほとんどが心臓死
心停止10秒で意識なくなる、1分以内に心肺蘇生へ、
心肺停止5分以上たったら頭は回復しない
早くやりすぎることを恐れない
正常の人にやって悪くなることはない!
意識は? 大声で声をかける、つねる、たたく
名前?何日何曜日?今何している?
息をしているか?
目で胸、腹の動き、耳で呼吸の音を聞く
吐物がつまってないか? 舌根がおちてないか?
人を呼ぶ、救急車を呼ぶ
救急車を呼ぶときには、意識がないことを必ず伝える
Airway, Breathing, Circulation  の実習
外傷の救急処置
頭が痛いか?吐き気は?
はっきりみえるか?二重に見える
痺れがあるか?手は動かせるか?足は動かせるか?
応答は正確か?あばれる、痙攣、走る方向、動き鈍い
頚髄損傷
頚椎の何番目の損傷か?症状がすべて違う。
肋骨骨折、肺損傷、
心停止 ボール
腹部の外傷
いたみ、ショック

4.高齢者の入浴死の原因は「熱中症」
 「入浴死」は、全国で年間 1万4000人。
 その内訳は圧倒的に高齢者が多いことが知られています。これまでは、血圧上昇による心臓病と脳卒中、水死が3大原因。 しかし、最近の調査により、これらは「熱中症」の一種で、体温上昇と血圧低下による一時的な意識障害が引き金になっている。 高温・長期間の入浴で体温が上昇した場合も、同じような仕組みで意識障害が起こり、浴槽内で倒れたりおぼれたりする。 熱いお湯に全身深々とつかる入浴法は、日本独自のスタイルです。最近の健康法として薦められている半身浴ではものたりず、しっかり肩までお湯に浸からないとお風呂に入った気がしないという理由で、全身がお湯に浸かってしまう昔ながらの入浴法をしてみえる高齢者の方も多い。 シャワー中心の欧米では入浴死はほとんど見られない。高齢者は寒くなると熱いお湯に長時間つかりたがる傾向がありますが、「湯温は低め」「入浴時間は短く」「家族はひんぱんに声をかける」という簡単な心がけで、入浴死は防げる。

 

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川崎市体育協会では、年2回主導者講習会を開いてます。

 本年は、大塚製薬の提供を受けて、熱中症のVTR並びに講演を企画しました。

秋には、栄養士による実践栄養教室、来春には、外科の講演を企画しています。

 

 

 

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