指導者の知っておきたいスポーツ医学―基礎編

2001.9.20.

  (財)川崎市体育協会主催 川崎市生涯学習プラザにて

 

(医)  はとりクリニック       羽鳥 裕  

TEL 044-522-0033  mail to: yutaka@hatori.or.jp

川崎市幸区鹿島田1133−15

 

はじめに

この指導者講習会におけるスポーツ医学の講習は、スポーツ導者として、スポーツにかかわる医学を広く指導者に知っていただきたく企画されています。

 川崎市体育協会並びに傘下の諸団体と、健康スポーツ医部会を窓口とする川崎市医師会との綿密なネットワーク確立のために、医師・体育協会・行政の担当も尽力しておりますのでご要望をお寄せください。

今回の講習を受けられさらに研鑽したい、又、講習内容、実際の指導、実際の競技・練習・試合などの運営に当たりまして、質問・疑問があるときには、ご連絡をください。また、個別の競技やけが故障の研修会も企画していますので、ご希望をお申し付けください。

 

スポーツにおける “医学”の位置付け

スポーツ指導員B,C級教本の目次から

社会体育概論

スポーツ心理学、スポーツ経営学、スポーツ生理学、スポーツ医学、スポーツ指導論地域におけるスポーツ行政

 

スポーツ医学で知ってほしいこと 

スポーツによる外傷・障害と対策

スポーツによる内科障害・事故と対策

スポーツ指導上の安全対策

スポーツと健康 発育期・中高年・高齢者の特性

現場における救急処置

 

医師・医師会としてのサポート

どんなサポートができるか?

講習会、チームドクター

メディカルチェック

大会派遣医師

緊急時のバックアップのための診療所・病院

ネットワークの構築、インターネットの利用

 

体育指導者に医療への理解を

運動教室・運動処方の指導

糖尿病教室、高血圧教室、肥満症など

 

スポーツにおける外傷・障害と対策

外傷(けが)と 障害(こしょう) の違い

部位による分類(頭部、上肢、腰部、下肢、ほか)

骨・関節・筋肉・腱・神経・血管ほか

骨折・脱臼・腱断裂

頭部に外傷(けが)

重い場合は脊髄損傷、四肢麻痺、

一生車椅子になることがある。

さかあがり、飛び込み、

ラグビーのタックル、スクラム

乗馬、体操、柔道、相撲、レスリング

安全対策  

プールの深さ、飛び込み禁止

首周囲の筋力強化

ヘルメット、フェイスガード

成長期

転倒、衝突

骨折・骨端線損傷

手首、ひじ

野球ひじ

つきゆび、ねんざ

 

スポーツによる内科障害・事故と対策

急性の障害

心臓死

循環不全

熱中症

運動誘発性アナフィラキシー

低体温

高山病

潜水病

横紋筋融解症

 

慢性の内科障害

スポーツ貧血

オーバートレーニング

スポーツ心臓

高尿酸血症

 

スポーツのゴールをどこに置くか?

トップレベルを目指すか?

趣味のスポーツ?

健康のため(一次予防)?

病気が悪くなるのを防ぐ(二次予防)?

 

運動はからだに悪い?

活性酸素 進入した細菌を除去する作用

生体には運動そのものは有害   なぜなら、

高強度運動は生体内で大量の酸素を消費、

そのため活性酸素が増加し細胞傷害、動脈硬化を作る。

高強度の運動をするときには、こんな注意が必要

抗酸化酵素の活性を高める、運動直後の、抗酸化物質の摂取が必要、高強度の運動は控える、

オーバートレーニングにならないようにする。

オーバートレーニングの早期発見

自転車、マラソン、100kmマラソン、トライアスロンなどの競技の前後で計ると、カテコラミンが枯渇する。走っても脈が増えない。

漸増負荷テスト、無酸素テスト、110%ATレベル

乳酸測定、運動時間

 

運動が身体によいことの根拠

Morris バス運転手と車掌

Harvard Alumni Study

身体活動量

Cooper Clinic

フィットネスレベル

インスリン感受性改善

血圧、糖・脂質代謝

がんの抑制効果

大腸がん、(50%減少)、直腸がんは余り減らさない

肺がん、前立腺がん、乳がんなども効果

運動と突然死

 

運動が病気を治す 

病気の発症を防止する。

薬と同じような効果が証明されている。

スポーツ選手と一般人

体育会と一般学生のその後

疾病の数          または  多数

肝臓病、糖尿病、結石、痛風、腰椎ヘルニア、腰痛症

運動量の急激な減少と体重の急増、大量の飲酒習慣は残る

東京オリンピック選手のその後      

内科系、外科系についてフォロー

体力、筋力は維持しているものが多い

退行性変化は一般とほぼ同様にあるが症状が少ない

スポーツ愛好家、オーバーユーズ

内科、整形外科故障が多い

元スポーツ選手 引退後のトラブル

中高年 登山

マスターズ大会 70歳以上

若いうちから運動習慣

ゴルフ 社用族 定年でやめてしまう

ハイキング、ジョギングはつづく。

 

高齢者のスポーツ

高齢者は、運動能力、体力の差が大きい

最大酸素摂取量、跳躍、平衡に差が出やすい

体力のない人の運動能力評価:報告が少ない。

 

運動療法の変遷     日本の場合

平成3年4月 健康スポーツ医認定制度

11,000名の健康スポーツ医、体協、整形外科

健康運動指導士

平成4年7月疾病予防の施設設置が可能

平成8年4月 運動療法指導管理料 高血圧

保険診療上の制約

自費診療、受診者の意識

 

運動における故障・けが

ATレベルの運動療法 週2回、3月で約5%に障害出現、高齢者の場合 退行性変化、自然治癒に長期間を必要

骨粗鬆症、変形性関節症、脊椎分離辷り症など

50歳以上  ジョギング、テニス、エアロビクス、ゲートボール

急性   転倒原因の骨折が多い、女性に多い(骨塩量)

       治療   関節が拘縮、筋の萎縮が長引かせる 

慢性  ジョギング 脊椎、膝 200km/月以上走る

元スポーツマンも要注意  テニス肘、柔道足、膝頚椎     

腰痛38%   膝痛31%    肩痛23%など

 

運動の有効性

消費エネルギー

運動後過剰酸素消費量

筋活動  筋肉量を増やすと脂肪を燃やす場所を増やす

交感神経を活発化  基礎代謝の亢進

有酸素運動

筋肉量の増加

ジョギングは、体重の3倍以上の負荷

 

糖尿病

NIDDMにはかなりの効果

コントロールが良好、進行する合併症がないこと

肥満の防止、改善効果

NIDDMが食事制限、身体トレーニングを併用すると

体脂肪が選択的に消費される

インスリン感受性と歩数計には相関

有酸素運動は、無酸素運動よりインスリン感受性改善

高脂血症

多価不飽和脂肪酸は LDL増加、酸化LDL増加、HDL低下にはたらく

コレステロール摂取量を300mg以下に

特に酸化コレステロールを減らす。(‘ひもの、かんぶつのオキシステロールに注意)

繊維を多く ペクチン、マンナン  腸管からコレステロールの吸収を防ぐ、

ビタミンE、C、βカロチンを多く取る

中性脂肪高値、HDL低値の時の治療

摂取カロリーの制限

単糖類、2糖類をへらす、複合糖類

アルコール摂取をひかえる

w−3を摂取すると、中性脂肪は下がる。

ビタミンE、C,βカロチン

 

冠状動脈の動脈硬化の進展因子

無投薬食事療法のみで2年間観察

コレステロールの摂取量

摂取総カロリー

アラキドン酸(C20:4n−6)の摂取が多い

S study

コレステロールの摂取量の差で、心筋梗塞などの発症率に差がある。

ジョギングの距離が20km/週以上の人

TC,TG,HDLさがるHDLあがる

ただし良く運動する人は、酸化LDLが増加するので、ビタミンE、Cを摂取すること。

1次予防は30%  二次予防は25%ぐらい

 

高血圧

臓器障害の進展を防ぐことが治療の目的

収縮期血圧は、10mmHg低下する。

 

身体組成の評価

体型の分類

肥満(皮下脂肪型、内臓脂肪型、かくれ肥満)

筋肉質、標準、やせ

過体重(筋肉、肥満)   BMI>24

除脂肪体重(LBM)

除脂肪体重/身長    加齢の変化が少ない。

体脂肪の評価

水中体重秤量法   水中で息を吐く、残気量の推定、酸素再呼吸法

キャリパー法    摘み方により誤差、肥満者で難しい

超音波法        6部位の測定、内臓脂肪の推定

インピーダンス法  食事、排尿、発汗、姿勢に影響される

隠れ肥満  ヨーヨーダイエットの20歳代女子、元痩せ型の中年男性

過体重と肥満は区別する。

体脂肪率の判定

身体組成と脂肪

体重      体脂肪量      除脂肪体重

 

体脂肪の役割

断熱作用  筋肉の温度低下を防ぐ

クッション

エネルギー貯蔵

効率のよい貯蔵法

総貯蔵エネルギーのうち80%以上

糖質  筋肉、肝臓、血中

糖質、蛋白4kcal/g  脂質は9kcal/g

身体に蓄積された脂肪は、塞翁巻く、水分が多いので7kcal/g

 

体脂肪量の測定

インピーダンス法

除脂肪体重の73%は電解質を含む

水中体重法を対照にしている

食事、発汗、姿勢など修飾因子が多い

水中体重秤量法

残気量の測定  酸素再呼吸法

キャリパー法

測定の熟練度

超音波法

皮下脂肪量    体密度D=1.087-0.00056x 

D=1.083-0.00048x  fx  6部位の総和 

上腕前後  大腿前後  腹部  肩甲骨下

 

運動を継続させるために

一無 二少 三多      慈恵医大 大野

たばこ 

アルコール、脂肪は少なく

睡眠、休養、趣味、人に多く会う

S   を さける        慶応大 山崎

salt,  sugar,  smoking,  snack,  sitting 

休養日を。

翌日に疲労を残さない

1万歩を目標、3―4,000歩からスタート。

準備体操、整理体操を入れて一時間以内から。

 

筋肉のタイプ

白筋

瞬発力、酸素の貯蔵は低い 脂肪を分会する力は弱い。

赤筋

スタミナ 酸素の貯蔵が多い、脂肪を分会する

基礎代謝が活発になって酸素消費が多くなる。

 

運動処方の実際  ストレッチング

ストレッチング

スタティックストレッチング    

 伸展反射を起こさぬようゆっくり伸ばす

バリスティックストレッチング  反動を利用して伸ばす、柔軟体操、 安全性に問題

コンビネーションストレッチング  拮抗筋を緊張させると弛緩する原理

                                  

運動処方の実際   ウォーキング

エクササイズウォーキング

歩行の力学   振り子運動 65%のエネルギー授受効率

時速4kmの歩行が最も酸素摂取量が少ない

時速8kmを超えると走るほうが少ない、走るほうが楽になる

強度をあげるのに弾性ある重り歩行(アートトレイ)がよい

ストライドを広げて歩く、腕を振る

踵からついてつま先で蹴る

                                  

運動処方の実際   ジョギング

ウォーキングと異なるところ

両足が地面から離れる

膝、腰への衝撃負担は2倍

ランニングハイ   セカンドウィンド  

目標を設定しやすい

long slow distance と インターバルトレーニング

 

レジスタンス運動の効果

筋力、筋パワー、筋持久力などを総称してレジスタンストレーニングは、インスリン感受性を改善する。

NIDDM

レジスタンスエアロビクス運動

負荷をあげるとき concentric,

負荷をおろすとき  eccentric    1.4倍の負荷がかかる。

加齢で筋繊維(瞬発筋  type2)は萎縮しやすい

体を支える大きな筋群(大腿四頭筋、腹直筋)の萎縮が大きい

神経系の低下よりも筋断面積の減少が影響大きい 過負荷の原則

拮抗筋もあわせてトレーニングする

レジスタンス運動は、インスリン感受性を改善する。

 

アクアエクササイズ

水中運動の特徴

浮力   膝などの負担が減る。体重が10分の1

水流、水の抵抗  マッサージ効果、エネルギー消費の増加

血流再分配による心臓への静脈還流量の増加、左室前負荷の増加

呼吸制限性(水泳)、非呼吸制限性(歩行)

同一強度ならば、水泳中のほうが血圧が高い、

心拍数の低下  11%低い

 

熱 中 症 と は 

   
ウオーミングアップとクールダウン

ウオーミングアップ

障害の予防、パフォーマンスの向上

内科、循環器 虚血、不整脈

整形  筋、靭帯、骨、 

ATを超えない、長すぎると疲労蓄積

筋温を暖める、後ストレッチング

クールダウン

静脈還流の減少、脳貧血

乳酸を除去、運動源とさせる VO2maxの30%

10分、心拍数<100

 

Diving reflex  

水中ホルター心電図

呼気時潜水に、より強い徐脈化、

脈拍数は平均 71/分から 45/分  最小 38/分となる。

 

中高年の運動

30代後半から50台をイメージ 20年前とは違う 

生物年令、体感年令、社会年令

仕事を任される立場、あぶらがのって面白い

女性の社会進出、  お子さんが反抗期、受験期、緊張関係、つかれやすい、ふとってきた、健診で異常の項目が増えた、精神集中できない、ねむれない、

ものわすれ、おこりっぽくなった

 

メディカルチェックはなぜ必要か?

トップレベルのスポーツ選手の場合 

スポーツ愛好家 

健康のためのスポーツ 運動

病気を治すためのスポーツ 運動

病気の人が運動してよいかの判定

トップレベルのスポーツ選手

オリンピック、バスケット、Jリーグ、競輪選手など

トライアスロンの場合

トレッドミルなどが義務づけられている。

一般市民マラソンの場合

きまったフォーマットがない。 

コンタクトスポーツ

 

国体出場選手 神奈川方式

40歳未満の場合   最大パフォーマンスを引き出す

40歳以上の場合   事故を防ぐ

ジュニア強化選手   今後に向けて育てる

内科系、外科系、筋力、体力

各種のメンタルテストと臨床心理、栄養士による診断とメニュー作成、アスレチックトレーナーとの連携

内科系、外科系チェック、筋力、筋持久力、最大酸素摂取量測定

コンタクトスポーツでは、頭、頚、腰部のMRI、膝などのチェックを。 自費であり、保険の80%から65%相当で施行している例が多い

アメフト、ラグビー、サッカー、ボクシング、レスリング、相撲、柔道、

 

現場における救急処置 ガイドラインの変更 容易になった

Bystanderによる一次救急

救急のA,B,C,

心肺蘇生法のホームページ、

スポーツの突然死はほとんどが心臓死

心停止10秒で意識なくなる、1分以内に心肺蘇生へ、

心肺停止5分以上たったら頭は回復しない

早くやりすぎることを恐れない

正常の人にやって悪くなることはない!

意識は? 大声で声をかける、つねる、たたく

名前?何日何曜日?今何している?

息をしているか?

目で胸、腹の動き、耳で呼吸の音を聞く

吐物がつまってないか? 舌根がおちてないか?

人を呼ぶ、救急車を呼ぶ

救急車を呼ぶときには、意識がないことを必ず伝える

Airway, Breathing, Circulation  の実習

外傷の救急処置

頭が痛いか?吐き気は?

はっきりみえるか?二重に見える

痺れがあるか?手は動かせるか?足は動かせるか?

応答は正確か?あばれる、痙攣、走る方向、動き鈍い

頚髄損傷

頚椎の何番目の損傷か?症状がすべて違う。

肋骨骨折、肺損傷、

心停止 ボール

腹部の外傷

いたみ、ショック

 

 

健康スポーツ医部会の活動

1999.3

箱根駅伝秘話 順天堂大学 体育学部 沢木教授

1999.10.9 (土) 16:00 講演会 

武蔵小杉 ホテルザエルシー

東京女子医大 アルピニスト 今井通子

中高年の登山の医学

事故をおこさない登山を目指して

1999.10.6,7

臨牀スポーツ医学学会総会

2000.6

コンタクトスポーツにおける医師の役割

2000。10.26

第11回日本臨床スポーツ医学会総会 宮崎

2000.11

運動療法 順天堂大学健康スポーツ科 南谷教授

2001.3

ビクトリーサミット in 神奈川

2001.8

健康スポーツ医部会主催エアロビクス大会 in KSP