成長期のスポーツ活動
スポーツ事故をどう防止するか?
2000.1.26 川崎市教育委員会 にて
川崎市医師会健康スポーツ医部会部会長 羽鳥 裕
(医)はとりクリニック
(財)神奈川県予防医学協会 人間ドック部長
連絡先 川崎市幸区鹿島田133−15
TEL&FAX 044−522−0033
はじめに
99年9月の市内の市立中学校体育祭での1,500m走の突然死、ついで、10月の市内私立高校での体育授業における1,500m走の不幸な事故が再発しました。また、県内の大学柔道部の夏の合宿でのインターバルトレーニング中の突然死、さらに、日本全国での統計を含めると意外と多いことがわかります。
どのように、受け止めとらよいか皆様も多くの方が悩んでいることだと思います。
学校体育や部活動を含めて、学校の管理下で起きる突然死・死亡事故は、体育現場の救急体制の整備、救急車の救急士同乗、学校心臓検診の管理区分整備、スポーツ医学の進歩、心臓救急医療の進歩などpositiveに改善するはずにもかかわらず、残念ながらここ10年以上も一定の割合でおきています。100万人あたり4から9人で、急性心臓死はそのうちの70から80%です。日本全体で年間120から250人という数は、欧米の統計とも人口割で見ればほぼ同世代では同じ割合です。
原因が確実にわかっているもの、およそ推定できるもののほかに、いまも、なぜ亡くなったのかが医学的に推測できないものもあります。心臓管理区分で運動禁止となっていた生徒さんが運動に参加してなくなってしまったことなども過去にはありましたが、管理区分上は運動可でも、運動がきっかけでなくなったと考えられる症例もあります。また、今回のように、過去の心電図異常なし、直前の体調も問題なし、運動量も過負荷である可能性も少ない、倒れた直後の救急救命処置、救急車内での除細動処置なども適切で、解剖をお受けになっていただいても原因となる所見が見当たらない という例も、この学校管理化の死亡の中にも30%近くあると推定されています。将来、もっと多くの症例のメディカルチェック、心電図、解剖、遺伝子医学などが進歩すると、原因不明というのは減る可能性はありますが、ゼロにはならないかもしれません。
なぜ、スポーツ医学を学ぶ必要があるか?
スポーツは誰でも親しむことのある分野です。また、スポーツがからだにさまざまな影響を与えることが明らかになってきています。スポーツ医学は、医学の中でも、外科、眼科などのように独立した科目ではありません。むしろ、内科、外科、整形外科、婦人科、精神科、小児科、救急医学など複数の知識が必要なだけでなく、さらに、運動生理学、運動解剖学など医学周辺の知識も必要です。病気を勉強する病理だけでなく、正常のからだを知る生理学がとても大事なのです。
そして、医師、看護婦、教員、体育指導者だけが知っていればいいのではなく、一般の生徒さん、一般の大人の方もふくめて、全ての人に勉強してほしいのです。スポーツ医学の領域はすでに膨大ですし、さらにこれからも進歩しています。ですから、今までにわかっている必須項目に絞って、勉強してゆきましょう。
スポーツ医学のことはじめ
1.運動のしくみを理解しましょう。
1・酸素、二酸化炭素の交換、水分、栄養の取り込み、疲労物質、老廃物の排泄はどうなっているか?
2・運動をすると体の中では、何が、どんな変化が起きているか?
3・なぜ、運動前のからだの検査(メディカルチェック)が必要なのか?
個人を、ひとりひとり把握することが大事!
4・トレーニングの効果があるかないかの評価は如何するか?
5・運動をしないほうがよい、あるいは中止させる必要があるときはどんなときか?
スポーツ医学の範囲は広いので、幼児と老人、スポーツ選手と病気をもっていらっしゃる方では扱い方がまるで異なります。ですから、スポーツ医学の対象を、乳児、幼児、学童、少年、青年、壮年、老年に分けたほうが便利です。また、対象とする運動種目が、弓道などのように精神的・静的なものと、球技のように動的な運動種目があります。さらに、ゴールを、世界レベル、国体・インターハイレベル、一般・趣味、健康維持、病気を治すためなどにわけて目標レベルに応じた対応が必要です。たとえば、プロ選手ならば、怪我をしていても、引退ではなく、治して復帰しなくてはいけません。生活の糧にかかわるスポーツもあるわけですから、所見があるから運動禁止と言うわけにはいかない場合も合います。
今回は、中学高校の生徒さんが対象ですから、少年から青年、主に動的なスポーツ、目標ゴールをインターハイレベル以上ぐらいで考えてみましょう。
主に、内臓の障害が原因となる内因性障害、怪我や故障が原因となる外科整形的な障害の二つに大まかに分けてみましょう。
1.内因性障害
A.心臓疾患
先天異常 大動脈弁狭窄、冠動脈起始異常
川崎病
肥大型心筋症
心筋炎
QT延長症候群
ほかの不整脈
川崎病は、乳児期に高熱、抗生物質の反応しない、紅斑などがあり、数年後に血管後遺症が20%、致命率が2%もあり、冠状動脈瘤、心筋梗塞が57%、心不全が18%、冠動脈破裂が5%などを起こしてしまう病気です。なくなった患者さんの心臓を詳しく見ると、心電図ではほとんど異常がないのに、顕微鏡で見ると、筋肉の間にリンパ球などの浸潤、心筋細胞の脱落などが見られることもあり、心臓疾患の学校管理区分では、心配なしと言われても、家族の方におかれては、お子さんの体調、症状に注意してあげたい病気です。
肥大型心筋症は、運動中の急死が多く、成人に比べて致命率が高く、心筋の肥厚は思春期に厚くなり、心室頻拍型の不整脈が出やすくなることが原因です。1988から1992年の学校管理下の心臓急死444例を分析すると、心筋症例が42例あり、全員運動中になくなっています。特に強い運動で35例と運動の強度に比例しています。
心筋炎は、風邪などを惹き起こすエコー、コクサッキー、インフルエンザウイルスなどが心筋に取り付いて、心筋を脂肪細胞、線維細胞に置き換え、心収縮力を落として心不全を起こします。また、心臓の周囲に心嚢水と呼ぶ浸出液がたまり、ますます心臓は動けなくなります。多くは一過性で、この急性期さえ乗り越せば危険ではありませんが、劇症型という拡張型心筋症から心不全、死亡に至るものもあります。
不整脈には多数の病気がありますが、そのひとつとしてWPW症候群は、10,000名中4から12名あり、WPWのまま続く人が75%、正常化する人が10%、頻拍発作が出現する人が10%近くありこの中に心臓急死される方があります。
一方、病院から突然死の症例を見ると、内因性の死亡161例、54%中、心臓死が10%、喘息などの呼吸死が7%、脳血管障害が4%ぐらいです。
B.熱中症
湿度が60%、温度が30度を超えると、脳血管障害、急性心不全、熱中症の頻度が急に増えます。従って、真夏の風のとおらないような体育館のスポーツ、炎天下の長距離などにはきわめて危険です。夏のインターバルなどでは、早朝または夕方、温度や湿度が十分にいい状態のときに運動すると言うことが大事です。
C.運動誘発喘息発作
冷たい乾燥した空気を鼻腔で加湿せずに吸い込むと、気管支を攣縮させ、喘息発作を誘発します。喘息の体質を持っているときは、ふだん喘息が出なくても、運動を急に行うと喘息が出ることが知られています。従って、ウオームアップを二倍の時間をかけてゆっくりからだを温めてあげることが大事です。
D.食物誘発性アナフィラキシー
同じようなものに、ある食べ物にアレルギーの体質のある人が、その食べ物を食べて運動をすると、わずかな量の摂取でも、全身の激しいアレルギー反応を起こし、空気が吸えない、声が出ない、ショックを起こすなど緊急事態になります。
E.横紋筋融解症
構音環境下などで、体調があまりよくないときに、激しいトレーニングを繰り返すと、手足の骨格筋(横紋筋)が、急激に破壊されて、腎臓の尿細管をふさいで急性腎不全をおこします。また筋崩壊の酵素(CPK,LDH,GOT)が急上昇して、まるで心筋梗塞のような状態を呈します。
2.慢性障害
A.スポーツ貧血
B.スポーツ無月経
C.スポーツ心臓
D.オーバーユーズ
E.バーンアウト
3.外傷(けが)と障害(故障)
部位別分類 (頭、頚椎、上肢、肩、腰、膝、足関節など)
種類別分類 (骨、関節、筋肉、腱、神経、血管など)
外傷別分類 (骨折、脱臼、腱断裂など)
外傷の救急処置
症状
頭痛、吐き気、二重視、眼、舌、手、足、動くか?しびれは?
応答は?
暴れる、不隠、痙攣、動きが鈍い
頚髄、頚椎損傷 命にかかわる、四肢麻痺
肺損傷、肋骨損傷、
受球後の心停止
腹部外傷・ショック
もやもや病,AVM
一人一人の把握のためにはどうすればよいか?
基礎疾患
家族背景
連携システム
カード、カルテ、電子情報
現場での対応、緊急対応
連携病院
体力評価、メディカルチェックの方法
国体選手、ジュニア強化選手神奈川県体育協会方式
トライアスロン、マラソン、駅伝選手方式
運動前にチェックしてほしいこと。
生徒さんの体調の把握をしてください。
家族の方も、スポーツ手帳、連絡帳などで先生に伝えてください。
発熱、咽頭痛、頭痛、関節・筋肉痛 はないか?
心筋炎は、風邪症状しかないこともある。
前日の睡眠は十分か?
前日の夕食、当日の朝食はとっているか?
腹痛、下痢、嘔気はないか?
前日アルコールは飲んでないか?喫煙はしてないか?
前回の授業と変わったことはないか?
嘔気、不機嫌、集中力がない、ボーとした感じ、
もやもや病、脳内出血の前駆症状
1500走を、体育祭、授業、成績に反映させることについての意見 多くの人に尋ねて。。。