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平成10年人間ドック年報 平成9年度人間ドック年報 肺がん健診とヘリカルCT 前立腺がん健診
がんで亡くなる人は年々増加し、一九八一年以来、死亡順位の第一位を占めている。現在、日本人の死因の30%近くが、がんということになる。しかし臓器別にみると、ここ数年「がんの欧米化」がみられるようになってきた。従来多かった胃がん、子宮がんが減少し、肺がん、乳がん、大腸がんが増加してきたのである。
とりわけ肺がんは、一九九三年、男性の死亡が胃がんを抜き第一位に、女性でも三位。罹患及び死亡総数は依然二位であるが、近い将来第一位になると予想されている。九五年の肺がん死亡率(人口十万対)をみると、男性五四・八、女性一九・五。一九五五(昭和三十)年の年齢調整死亡率と九五年のものとを比較すると男性では六・一倍、女性では四・五倍に増えている。いかに肺がんが増えているか窺い知ることができる。
肺がんにはがんのできる場所によって肺門型と肺野型に大きく二つに分けられる。肺門型は肺の入り口の太い気管支にでき、ほとんどが喫煙と関係の深い「扁平上皮がん」。肺野型は、気管支の末梢部から肺の奥にでき、「腺がん」と呼ばれ、日本では約半数がこの腺がんに罹患するといわれている。そのほか非常にたちの悪い「小細胞がん」と「大細胞がん」がある。
さて、このように増え続けている肺がんに対する予防策は、喫煙対策などの一次予防と、肺がんの早期発見をめざした検診による二次予防があげられる。今、様々な議論がなされているのがこの検診である。現在、一般的に肺がん検診は、胸部X線撮影と喀痰細胞診の二つの検査で行われている。X線撮影は主に肺野部の腺がんを、喀痰細胞診は扁平上皮がんをチェックするようになっている。
この肺がん検診も含めてその有効性を検討したものが、今年3月付で出された厚生省の「がん検診の有効性評価に関する研究班」報告書だ。その報告書を受け、一部新聞などで「有効性に疑問」という報道がなされ、肺がんもその一つとされている。しかしその後、厚生省が出した「『がん検診の有効性等に関する情報提供のための手引』について」の中で記しているように、「有効性の証明が必ずしも十分ではない」とは、「有効性が認められない」という評価とは根本的に異なる次元の評価であり、科学的データが不足し、今後有効性に関するデータの積み上げが必要であるということを示している。
また「現行のX線撮影でも受けないよりは遙かに優れています。受けないと五年生存率は一五%以下で、倍は救われます。こうした点を認識して、検診不要論は危険とすべきでしょう」と田中医師はいう。
ただこの胸部X線撮影による肺がん検診には、どうしても避けられない点もある。県立がんセンターの山田耕三医師は、この点について次のようにあげている。
@通常の胸部単純X線写真では人間の胸郭、肺および縦隔の構造を考えると死角が多い
A通常の胸部単純X線写真の描出能力は明らかにX線CT画像より劣っており、淡い病変や径一五ミリ以下の大きさの病変は抽出されないことがある
B撮影のタイミングや撮影の体位などで病変の描出が影響されることがあり、比較読影判断が迷うことがある
さらに、前述したように診断の難しい肺野部の腺がんが急速に増加している現状では、新しい肺がん検診システムの構築が課題としてあげられてきた。
こうした課題をクリアした画期的な検診装置が、高速螺旋CT(=ヘリカルCT)なのである。
先の厚生省の報告書の中でも、肺がん検診については「今後は診断精度の向上をはかる必要があり、肺がん検診への高速螺旋CTの導入への研究も続けていくいく必要がある」と示されている。
当協会では、より早く、より正確に「治せる肺がん」を見つけるため、二年前の一九九六年四月、県下で初めて肺がんのスクリーニング検査にヘリカルCTを導入した。
通常のCTは身体を輪切りにし、一回ごとに息止めを繰り返すためなかなか正確に肺の全体を撮ることができない。 しかし、このヘリカルCTは一回の息止めで、螺旋状に高速回転しながら肺の断層像を瞬時に撮影することができる。そしてX線写真ではなかなか見つけにくい肺の周辺にある臓器の影に隠れている微細な変化を発見することができ、しかもわずか数ミリの異常陰影も見つけ出すことが可能となった。
つまりこれまでのX線撮影で、フイルム上に写らない淡い病変でも発見が可能となったのだ。例えるなら、これまでのX線検査では、がんが育った完成品が発見されていた。だがこのヘリカルCTの出現によって、育つ前の未完成段階で発見することができるようになったといえる。 これまで肺野型の肺がんの早期がんは「20ミリ以下でリンパ節転移を認めないもの」とされてきた。しかしそれでも@五年生存率が70%A一五ミリ以下の微小なものでも15−20%といわれてきた。だが、このヘリカルCTの出現により本来の早期がん=「切除または根治的な内科的治療をすることでほぼ100%の五年生存率が得られる集団」を発見可能になったと山田医師はいう。
では、実際にこのヘリカルCTではどのような成績を残しているのだろうか。当協会でヘリカルCT導入と同時にそのエキスパートである田中利彦医師が専門医として担当している。今回、田中医師はヘリカルCTによる肺がん検診の過去二年間の結果をまとめて報告している(表)。
それによると受診者は男性一,六八六人、女性五二四人で、総数二,二一0人。「そのうち男性八人、女性二人の計一0例(一二病巣)の肺がんを発見した」という。それらのステージはすべてT期で、リンパ節への腫張は認められず、治癒率の高い肺がんであった。またそのほとんどが胸腔鏡下手術で行われ、絶対根治手術であった。その大きさは、六ミリ〜三二ミリで、平均一一ミリ。これまでのX腺撮影による検診で発見された発見がん三九例は平均二二ミリであり、半分の大きさで発見されている。
発見率をみてみると、男性は十万人に対して四七四・五人、女性は十万対三八一・七人になる。現行の肺がん検診による発見率は、男性十万対八三・九人、女性十万対二三・四人。これと比較すれば男性で五倍以上、女性で十六倍以上の発見率となる。だが、まだ導入後二年ということもあり、受診者数などの関係で単純な比較はできない。しかし、年齢を調整し、予測できる発見数などから疫学的に解析した「標準化発見比」でみると、二・四四になる。田中医師によると「X線撮影による肺がん検診の標準化発見比は0・七」という。つまり約三倍の発見率となっている。
肺がんという発見の難しいがんに対して、ヘリカルCTによる肺がん検診は非常に有用で、革新的な検診システムといえるだろう。
ただし最新の機器導入には多くの費用がかかり、読影労力も大きく、検診費用もそれに相当したものとなる。その点もご理解いただきながら当協会では、より早期のうちに、しかも治せる肺がんを発見するため、ヘリカルCTによる肺がん検診を実施している。申込みは当協会・検診計画部0四五(641)八五0三。
動向
方法
人間ドックは、平成10年から新システムになり、受診者から好評をいただいている。まだ、初期トラブルに相当するものがいくつかあったが、ほぼ解決した。平成8年度から7階に循環器およびヘリカルCTの専用フロアが完成し、肺がんにおけるヘリカルCTの有効性が理解され胸部精査を希望する受診者も増えている。平成10年から始まった前立腺がん検診は、事後フォローの手法は完成しており、今後増加すると思われ、産業健診での受診者希望にも応じられるよう準備している。人間ドックの内容は、事前調査による問診、看護婦による確認、医師の問診および診察、身長、体重、肥満度、体脂肪率の測定、視力、聴力、眼圧の測定、血液生化学および尿検査、胸部レントゲン2方向直接法、胃透視直接法、心電図(負荷)、保健婦または管理栄養士による食事生活指導を行っている。希望者には有料であるが、ヘリカルCT、エルゴメーター運動負荷心電図、体力テストとそれに基づく運動指導を行っている。すでに疾病を持ち治療あるいは経過観察を行っている受診者には、臨機応変に追加検査を行い、受診者の便宜をはかっている。さらに、当日結果の出た部分については医師による結果の説明を行い、必要があれば、基幹病院への紹介または治療に結び付ける。また、当日結果の判明しなかったがんなどの重大な疾患に対しては、後日必ず外来へ受診するよう求め、外来をキャンセルした場合には、保健婦による追跡を行い、遺漏なく対処している。食事・運度指導、生活習慣改善などの期待できる疾患には、3月後、6月後に再検査を行い、当日に結果を説明し必要があれば保健婦、管理栄養士の面接、運動指導士による運動処方などを確認し、受診者の努力、きづきを喚起するよう努めている。
健康づくりプログラムは、心電図つき全身持久力検査をふくむ体力検査9項目を行い、必要に応じて、トレッドミル12誘導負荷心電図にきりかえて検査を行う。その結果をもとに、毎年の体力変化に注意しながら、生活改善に努めるようにしてもらう。平成10年度でひとまず終了するが、労働省のTHPにしばられず、個人の背景を考慮した実践的な役立つプログラムを現在構築中である。
結果
受診者数は、男性5550名、女性3797名で 年ぶりに減少に転じた。平均年齢は、 男性51.4 9.0 歳(19歳から84歳)、女性51.3 8.6 歳(21歳から83歳)であり、平均受診年齢が約0.8歳上昇し,最近は毎年上昇している。受診歴は、5年連続以上が男性、42.7%、女性31.6%とさらに増加する傾向にあり、2年以上の継続受診者は男性70.2%、女性60.6%でこれも漸増している。総合判定区分を見ると、異常なし、心配なしの2群をあわせても、男性2.8%、女性6.9%で、要経過観察、要生活注意をあわせると、男性59.4%、女性53.2%で、残りの半数近くの人が、再検査、精密検査、要受診となる。これは、加齢とともに顕著となるが“治療継続”の判定が増加するためである。
平成9年のがん発見の内訳は、胃がん6名、大腸がん6名、肺がん4名、乳がん1名、子宮頚がん1名、甲状腺がん1名と全人間ドック受診者のうち0.20%の人に新規発見がある。個々数年発見率は一定しているが、ヘリカルCTの導入もあるため、肺がんの発見率が上昇傾向にある。
[セクション 2 の内容]
[セクション 3 の内容]
−前立腺がん検査−
日本における平成6年の前立腺癌の罹患率は、男性人口10万人あたり10.9人と男性の癌の罹患率で第7位であるが、これまでの増加率、高齢人口の増加、生活の欧米化などから将来的には重要な癌になると予想されている。これまでの前立腺臨床癌の特徴は、発見された時点でほとんどが進行癌であり予後が不良であることであった。最近鋭敏な前立腺腫瘍マーカーであるPSA(前立腺特異抗原)の出現により、PSA単独測定による前立腺集団検診が一般的になり成果を上げている。
方法
神奈川県予防医学協会では、1998年4月よりオプション検査として、前立腺癌健診を開始した。一次健診として、問診、検尿そしてPSA単独測定で行っている。PSA測定キットとして、タンデムRと互換性のあるコスメディー・F-PSAを使用し、PSA値3.0以上の場合を高値とした。高値の場合はPSAの再検査を行い、二次健診を神奈川県立がんセンターで行った。二次健診では、直腸診とMRI検査を行い、前立腺体積を計測後、超音波検査下に経会陰的に6ケ所分割針生検を行っている。生検は麻酔下で入院して行った。PSA単独健診での問題点は、PSAが前立腺癌の腫瘍マーカーではなくて前立腺の腫瘍マーカーであるという点がある。特に前立腺肥大症と前立腺癌との鑑別は重要で、現在はF/T比(free
PSA/total PSA)、PSAD(PSA dennsity:PSA/前立腺体積)、PSA velosity(時間によるPSAの変化)などにより特異性を高める努力がなされている。またカットオフ値の3.0ng/ml以下でも5%の頻度で前立腺癌が存在しており、定期的なPSA検査が必要である。
結果
平成10年度の受診者数は302人で、ドック男性受診者の5.3%であった。このうち30人(9.9%)がPSA高値のため再検査し、11人(3.6%)ががんセンターで二次健診を受けた。3人(1%)に前立腺癌が発見され治療を開始したが、いずれもステージBの早期癌であった。
−保健相談−
平成10年度から個人対応の充実、生活習慣病予防の充実、事後指導を重視した事後措置システムを目指し、新システムでスタートした。その一つに一次予防への対応としてライフスタイル診断の結果と健診結果を結びつけて画面表示、生活習慣の変容のきっかけづくりを目指した保健指導を導入した。このライフスタイル診断は問診票よりブレスローの七つの健康習慣と保健行動・メンタル・食習慣・運動習慣に関する質問を点数化し、レーダーチャートで結果を示して各自のライフスタイルの自己検討を促し、生活習慣病予防を図る工夫をした。
今後の課題として従来から行ってきた、再・精密検査のフォローアップに加え生活習慣病の予防を目指した事後フォロープログラムとしてLMP(ライフ・モディフィケーション・プログラム)を検討、はじめに「脂質低下プログラム」を試行しているが、さらに検討し実施を目指したい。
[セクション 3 の内容]
[セクション 3 の内容]
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